情報楽園会社

(株)オトバンク 上田様より献本御礼。
CDやDVDレンタルでもはや代名詞的存在になった「TSUTAYA」。その親会社は「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」と呼ばれ、その頭文字をとり「CCC」と言われている。「CCC」は「TSUTAYA」だけではなく、様々な店で使える「Tポイント」をも生み出しており、多様な事業展開で業界の垣根を越えて注目が集まっている。

本書はその「CCC」の代表取締役が「TSUTAYA」の隆盛と、「ディレクTV」の失敗についての思いや学んだことについて、1996年の同書の内容から14年間の思いを加えて綴っている。

第一章「私の起業事始め」
TSUTAYAの創業のエピソードについて書かれている。元々「TSUTAYA」は「蔦屋書店」と言われ、「蔦屋」という江戸時代から続く商人の屋号から取ったものである。ちなみに著者はその蔦屋の跡目とは全く関係がない。

第二章「カルチュアコンビニエンスの時代」
日本で「コンビニエンスストア」、略して「コンビニ」ができたのは1969年に大阪で「マイショップ」の1号店が開店したことからである。今となっては様々なところで「〜のコンビニ」と言われたのだが、会社の名前にもなっている「カルチュアコンビニエンス」はCDや映画と言った「文化」を手軽に、そして自由に見聞きすることからきている。

第三章「知的情報革命を見切る」
日常にあるような形ある「モノ」と同じくして、知的情報も直接その場所に行かなければいけないモノから、インターネットを通じて簡単に手にはいることができるようになった。さらにお金がかかるモノも安価、さらには「タダ」で手に入れられるようになり、昨年末から今年の頭にかけてベストセラーとなった「FREE」の時代となった。

第四章「起業家・二つの宇宙」
「二つの宇宙」とは自分の外にある「宇宙」と、内にある「宇宙」のことを表している。起業家にとって外的なことよりもむしろ「これで興したい」という内なるモノを醸造させることの方が良いとしている。

第五章「企画会社だけが生き残る」
時代の流れとともに、私たちの嗜好、思考、志向が急速に変わり、多様化している。その中で新しい潮流を興させるような発想力をつけ、新しい企画を生み出す力のある会社こそ、生き残る、繁栄していくのだという。

第六章「起業のプログラム」
著者の起業精神について自らのサラリーマン・起業家時代のことを綴りながら書かれている。本章を読むと最近話題となっている「週末起業」の原型がここにあると言うような感じがした。

第七章「フランチャイズビジネスの考え方」
フランチャイズはコンビニ、スーパー、飲食をはじめ様々な業界で行われている事業形態である。飲食に多いフランチャイズであるが、知的なモノをレンタルする事ができる業界のフランチャイズの極意が詰まっている。

第八章「ネットワークヴァリューの威力」
「情報の共有」はインターネットが盛んである現在ではもはや当たり前であるが、著者はその事を創業時から考えていたという。

第九章「経営者の立場、社員の立場」
社員教育、経営計画の根幹について書かれている。

第十章「デジタル革命と心の時代」
今となっては「デジタル」の時代と言われている。さらにモノの豊かさを求めるよりも個人の満足、「心」の満足を求める時代となった。その中で企業に依存することができなくなっていった。

第十一章「TSUTAYAがつくるネットワーク社会」
「TSUTAYA」は何をもたらしてくれるのだろうか。ゆったりとした雰囲気、自由に本を読んだり、いつでも・どこででも音楽や映画などを楽しめる、いわゆるモノの満足依りも「心の満足」に重点を置いている。

第十二章「ディレクTVへの進出」
地上波のTVは10数局しかなく、TPOや個人の嗜好に応じた放送ができていないと言うのが実状にある。
CDやビデオのレンタルではなくテレビでいつでも好きな映画などを観ることができる、「ディレクTV」はその発想の中で始まった。

第十三章「テレビの意味を変えるディレクTV」
著者が「ディレクTV」に出会ったのは95年、アメリカにいたときのことである。アメリカではすでにケーブルや衛生放送が発達しており、約200ものチャンネルがある。日本でもスカイ・パーフェクトTVなどが同じくらいあるのだが、アメリカほど認知されていない実状がある。「ディレクTV」は今までのテレビの常識を覆し、新しいテレビのかたちを著者は脳裏に焼き付けていたのだった。

第十四章「私の考える「楽園」づくり」
「情報」が活発に流れることによって、これまで「モノ」に依存してきたところから「心」の充足に重点を置き、「情報」がいつでもどこでも手にはいることによって人々が幸せになる「楽園」を作ろうとした。

第十五章「二〇一〇年、新しい「楽園」づくり」
「ディレクTV」は2000年に廃局となり、著者が構想を練っていた「楽園」が崩壊してしまった。次々と展開していく中で株主の軋轢が大きなネックとなってしまった。「失われた10年」から抜けだし、「戦後最長の好景気」と呼ばれた時代でもこれと同じような事が起こっている事を考えると「株主」と「経営」の駆け引きの恐ろしさというのがよくわかる。
その失敗を糧に、今では「TSUTAYA online」などを成功させている。

本書のタイトルである「情報楽園」は20年の時を経て、理想に向けて進化を続けている。そう、個人の幸福を求める理想の「楽園」を目指して。