デフレの正体 経済は「人口の波」で動く

角川書店 岸山様より献本御礼。
一昨年の「リーマン・ショック」で世界的に経済は減衰した。その中で日本は低い位置で浮き沈みを繰り返している様に思える。今週一週間もアメリカの経済をうけ日経平均株価が続落をした。その煽りのせいか、派遣切りや失業のニュースも後を絶たない。さらに「失われた10年」にもあった「デフレ」が再びやってきている。

景気回復の特効薬とは何かという本も色々あり、私もいくつか読んでいる。さらには当ブログでもいくつか紹介している。玉石混淆といえる様な経済書ばかりであるが、本書はデフレは「人口の波」のせいだと言い切っている。その理由と対策について本書の中身を見てみよう。

第1講「思い込みの殻にヒビを入れよう」
「リーマン・ショック」以前はこれまで期間最長だった「いざなぎ景気」を超える長さの好景気、「戦後最長の好景気」と呼ばれるようになった。しかしその一方で「格差問題」が勃発するなど、別名「実感無き好景気」とも言われている。好景気か不景気か、さらには経済規模の判断はよくニュースで使われるGDPを指標にしているのだが、それだけを本にするのはどうかと著者は苦言を呈している。

第2講「国際経済競争の勝者・日本」
現在不況と呼ばれており、その脱出方法について様々な議論となっている経済界であるが、日本の経済回復が遅れているということも叫ばれている。しかし、著者は日本の金融資産は不況になった今でも減少していないことについて指摘している。2010年春号の「資本市場クォータリー」の統計でもあまり減少していないのがよくわかる。さらにもっと言うとこれからGDPの規模では中国に抜かれるが、これまで「量」で経済に勝負をかけていたところから、「質」に転化をする時がきたのではないかという。

第3講「国際競争とは無関係に進む内需の不振」
今から80年前に起きた世界大恐慌と「失われた10年」、そして現在のデフレの違いは「世界大恐慌」はお金が無く、買えなかったことにより経済が急速に冷え込んだものである。一方後者の2つはむしろ「お金はあるが、買わなかった」、つまり内需の不足からきているものであるという。

第4講「首都圏のジリ貧に気づかない「地域間格差」論の無意味」
「格差問題」のなかで、最も言われているものの一つとして「地方格差」というのがある。これは首都圏に対して地方にいる人はもっと貧困にあえいでいるというものである。しかし、必ずと言ってもこれは当てはまっているものではなく、首都圏の経済が衰退している時、逆に経済が衰退することなく、横ばいとなっているところもあるという。本章では「小売販売額」を基に東京と青森を比較しながら、「地方格差論」の無意味について論じている。

第5講「地方も大都市も等しく襲う「現役世代の減少」と「高齢者の激増」」
ここから「人口の波」の話に移る。戦後生まれの「団塊の世代」、または「全共闘世代」とよばれる世代がリタイアをすることによって労働力は激減するのは明白である。
それだけではない。結婚などを行うためお金が必要になる世代にお金が回ってこない。つまり内需不振が強まることにより、経済は減衰の一途をたどるということも言える。

第6講「「人口の波」が語る日本の過去半世紀、今後半世紀」
「人口の波」というのは別に日本で起っているわけではない。とある国では停電が頻発した年は出生率が高いそうである。停電を例に挙げたが、逆に出生率が極端に落ちる年もある。日本では十干十二支のなかで「丙午」の年は極端に出生率が減少している。最近では1966年であるが、そのときは妊娠中絶を行った婦人も多かったという。
日本での「人口の波」は前章で述べた「団塊の世代」、さらに「ベビーブーム」の世代などがある。

第7講「「人口減少は生産性上昇で補える」という思い込みが対処を遅らせる」
労働者の人口は減少の一途をたどっている。世代交代の波というのもあるのだが、その一方で大量のリストラ、さらには「就職氷河期」などが挙げられている。そんな中で企業がよく叫ばれていることとして「ムダ削減」「効率化」「生産性の向上」というのがある。少ない時間でアウトプット力の量や質の向上を目指すというのであるが、上げるにも労働者の個人差があるため、なかなか難しい。むしろそれが「錦の旗」のごとく、それを言えば労働者は従うだろうと言うような幻想に陥っている経営者がいるのではないだろうか。

第8講「声高に叫ばれるピントのずれた処方箋たち」
出生率の低下、内需の減少など様々な要因がはらんでいると言われている「デフレ」。その対策として政府のバラマキに期待を寄せたり、さらに技術革新が最重要であると主張したりするなど、本当に相なのか、と疑いたくなるようなものがある。

第9講「ではどうすればいいのか① 高齢富裕層から若者への所得移転を」
さて、ここからは「提言」に移る。最初に高齢富裕層から若者に対しての所得移転であるが、様々な経済提言の中で最も賛成したい提言といえる。
なぜかというと高齢富裕層は所得も多いが同時に貯蓄額も多い。少し古いデータであるが、2006年の世帯主年齢別貯蓄額では20代が平均で171万円、団塊の世代に当たる60代では何と1601万円にも上っている。貯蓄額にしてもかなりの差が出ている。
これから必要になる若者世代にスライドしていくような経済の流れをつくる、高齢者を対象にしたビジネスをすると言うのもひとつの手段と言える。

第10講「ではどうすればいいのか② 女性の就労と経営参加を当たり前に」
もう一つは女性就労である。これは昔からある固定観念の脱却と言っていいのだろうかと思えるが、女性の労働状況の改善は85年からずっと行われているものであり、これをさらに発展すると言うものである。年収や貯蓄の格差がある分、既婚で夫婦そろって稼ぐと言う考えが増えていく中で、女性の労働状況の改善は良策に思えるが、企業側からの反応と扱われ方の根幹から変えていかないと難しい。

第11講「ではどうすればいいのか③ 労働者ではなく外国人観光客・短期定住客の受け入れを」
最後は「観光立国」である。観光はこれまで民間が主導になって行ってきたが、政府でも「観光庁」を設置するようになったほどである。しかしそれでは足りず、もっと観光立国のために予算を上げるべきと主張している。日本は世界でも有数の観光立国であるが、そこからの経済効果をどのように高めていくべきかと言うのはまだまだ見えてきていないのも事実である。

「デフレ」の時だから消費は落ち込むのではなく、デフレの時だからでこそ、新しい対策が必要であるが、その矛先、根本原因は果たして正しいのか、これは政府に限った問題ではない、私たち民間で行えることも必ずある。政治に頼るばかりではなく、自らもどのように進めていけばいいのか考える時代に入ったのではないだろうか。