盲目の犬ぞりレーサー―私に見えるのは可能性だけ

夏真っ盛りというのにも関わらず、季節外れの作品である。しかし犬ぞりに魅入られ、そしてそれに可能性を欠けた盲目の女性の生き様に私は魅せられた。

TVでも時々取り上げられている「犬ぞり」であるが、レース競技としてもあるだけではなく、雪の中人間や荷物を運ぶ目的で使われることも多い。実用的に使われていたのは主に米国のアラスカやカナダの北部、さらにはグリーンランド(デンマーク領)などが挙げられる。

日本でも南極や北極の探検にも使われ、それを取り上げた映画「南極物語」はあまりにも有名になった。ちなみに南極体験に犬を使うのは1991年に「環境保護に関する南極条約議定書」により禁止されており、現在は南極体験に犬を使うことは見られない。

さて本書は盲目の犬ぞりレーサーであるレイチェル・セドリスの半生を綴った作品である。生まれながらに目に異常があり、ほとんど目が見えない状態だったという。目が見えないというギャップに関してのコンプレックスは持っていなかったが、小学校の時にそのことでいじめにあった。それに耐えながら、彼女は犬ぞりレースに出会った。父親もまた犬ぞりレーサーだったため、それに影響されてのことである。

犬ぞりレースは犬をひいて走るということで楽なように思えるが、実際は犬とともに、自分も走る必要がある。つまり自分が走ってくれるのを犬が補助をしてくれるというため、そりに乗る人も相当な体力を持たなくてはレースができないと言う。しかも彼女が走ったレースは短くて約6.4㎞(4マイル)だったが、やがて距離が長くなり、最も過酷なものでアイディタロード・レース(「アイディタロード・トレイル」とも呼ばれる)というのがあり、1160マイル(約1800㎞)にも及ぶ(当然1日では無理なので、その距離をやく約10日間で走るという形式)。

彼女はそれに出場し、優勝することを常に目標に持っていた。しかしそれに参加するには数多くの困難があった。難関と言われる予選レースに勝ち抜くこともあるが、それ以上に競技委員会と理事会を説得しなければならない。全盲のレーサーを出走させることに関してそれらだけではなく、レースのチャンピオン経験者も反対の声を上げていた。そのプロセスとして数多くのレースに参加したのだが、そのたびに参加登録などのトラブルが起った。それと同時に「盲目の犬ぞりレーサー」ということでマスコミも殺到した。過酷なレースの中、怪我や凍傷も絶えなかった。

それでも彼女はひたむきにアイディタロード・レースに向けてひたむきに邁進していった。2005年ついにそのレースに出走する夢を叶えたが、結果はリタイアだった。しかし彼女はその結果に甘んずることなく、これからもずっと挑戦を続けていく。

本書の著者であるレイチェル・セドリスは奇しくも私と同じ年に生まれている。そのことからか自分と同じ年に生きる人がひたむきに前に進む姿に心を打たれた。生まれながらにハンデがあってもそれを気にかけず乗り越える力、その力をひしひしと感じた一冊であった。