自由論の討議空間―フランス・リベラリズムの系譜

社会思想の中で代表的なものに「自由論」というのがある。最も有名なところではルソーが挙げられる。主にフランスで唱えられた思想であるが、今でも思想の代表的な理論として取り上げられる機会は多い。

本書はフランスで栄えた自由論がどのように形成され、どのようなメカニズムになったのか、ルソーのみならず、アダム・スミス、コンドルセ、コンスタンなどの人物を取り上げながら考察を行っている。

第1章「自由とは何であって、何でないのか」
「自由論」の代表格として挙げられるルソーであるが、そのルソーと比較する思想の代表格として本章ではロックモンテスキューを取り上げている。
ロックは「人間知性論」や「統治二論」が代表される作品であるが、とりわけ後者は「自由主義」に基づいた政治理論を発表しており画期的であったという。かつてイングランドではカトリックにおける王権神授説により宗教が政治を支配していた。しかし「統治二論」の発表により、政教分離や権力の分立などが唱えられ、後に伯爵の愛顧を受けルこととなった。しかし伯爵が失脚すると亡命せざるを得なくなったが、1689年の名誉革命で帰国した。
ロックの思想はモンテスキューのそれによってさらに発展し、現在の日本国家の根幹をなした「三権分立論」が唱えられた。ほかにもモンテスキューは「法の精神」によって立憲論や権力分立や自由論を主張している。

第2章「ルソー 人民主権と討議デモクラシー」
本書の根幹と言えるルソーの思想を考察している。ルソーの「社会契約論」は1789年に起った「フランス革命」となり、フランスやアメリカの思想に多大な影響を与えたとされている。ほかにも「エミール」も有名である。
さて、ルソーの思想によって触発され、起った「フランス革命」であるが自由や民主主義の母体にもなったにもかかわらず、社会主義や共産主義、全体主義といった「民主主義」や「自由主義」とは相対する思想の母体にもなった。それはいったいなぜか。
理由は簡単である。それまであった政治思想として「君主主権」や「君主独裁」があり、激しい階級の差が浮き彫りとなった。とりわけ君主の圧制政治の中で反発や鬱憤が芽生え、それがこのフランス革命となって爆発した。その爆発は権力者や反革命者を迫害、虐殺を行ったとされており、それが後の社会主義や共産主義となった。

第3章「アダム・スミスとフランス思想」
今度はルソーの後に唱えられた自由思想についての考察が続く。ここでは「国富論」で有名なアダム・スミスを取り上げている。アダム・スミスが唱えた思想はもっぱら経済論であり、経済学でよく使われる「神の見えざる手」はあまりにも有名であるが、「国富論」の中では第4編第2章の1度しか取り上げられていない。たった1度しか取り上げられていない言葉があまりにも有名になり、「神の見えざる手」が一人歩きしているように、経済学界に広がりを見せ、それに対して批判や擁護の意見が相次いだ。

第4章「コンドルセとフランス自由主義」
コンドルセは侯爵であり、かつ数学や哲学の学者である。中でも「社会学」という学問を創設したことでも有名である。
数学者であり、哲学者であり、社会学者であるコンドルセがなぜ本書で取り上げられているかというと、フランス革命時に共和主義者の論客となり、革命者たちへの批判を行ったことが挙げられている。

第5章「コンスタンと近代人の自由」
コンスタンはスイス生まれであるが、フランスで最も活躍した思想家の一人としてあげられている。主に自由主義であるが、反ナポレオン主義として知られているところが多い。しかし「反ナポレオン主義」としての色が強かったのは彼の妻であったスタール夫人である。
コンスタンの自由思想の中に第2章で取り上げた「ルソー批判」もある。ルソーの思想は自由主義であるが、それに伴って専制政治の武器になりかねないという。

第6章「トクヴィルとネオ・トクヴィリアン」
トグヴィルはあまり知られていないのだが、アメリカの国家思想を自ら旅して書いた「アメリカの民主政治」というのがある。アメリカの国家思想を学ぶ教科書として150年以上愛され続けてきた。日本でも福沢諭吉が紹介し、民主主義の重要性を説いた。

第7章「共和主義と政治的近代」
第6章までは主に18〜19世紀のフランスやイングランドの政治思想について取り上げてきたが、本章ではそこから大きく飛んで二度の世界大戦の後、日本で言う「戦後」に当たる時期である。その時代の中で「共和主義」というのはどの方向へ向くのかについて考察を行っている。先進国の中で「共和制」をとっている国はアメリカやフランス、ドイツが挙げられる。では日本ではどうか。日本では民主主義制は取っているものの「象徴天皇制」という、国政には参加しないものの象徴として天皇家を置くというスタンスを取っている。イギリスでも王室はあるが、「制限君主制」といって政治的な関与は制限されている。

政治思想の中で代表的なものとしてあげられる「自由論」、それを根幹として国家形態としてある「共和制」。古くはロックやモンテスキュー、ルソーから唱えられたこの主張は現在の国家の根幹をなすほどの影響を与えたのは間違いない。本書はなぜその思想が広がりを見せたのか、その根幹は何なのかということを深く追求している。