歩考力―「ひと駅歩き」からはじめる生活リストラクチャリング

「歩く」というのはつくづく不思議な力を持っていると思う。「歩く」ことは一種の運動であり、ダイエットなどでよく行われる「ウォーキング」も「歩く」事である。

私も大学受験の時に英単語などの暗記ものを行うときは自宅近くの堤防をずっと歩きながら覚えていた。大学に入っても暗記ものは基本的に歩きながら覚えることにしていたし、仕事においても書評においても仕事で壁にぶち当たったときは必ず歩くようにしている。

本書の著者の下関氏は毎日歩くことを日課にしているほどである。仕事の大半を「歩きながら」行っており、「歩く」事について様々なチャレンジを行っている。本書はチャレンジし続けてきた記録、そしてこれから歩くことを始めようとする方には必見の一冊である。

ステップ1「歩く人は仕事が速い」
東京にきたときに印象を持ったのは足の速い人が多いという事である。決して腐るのが早いということではない事を付け加えておくが。
それはさておき、仕事が速いのと足が速いというのはなかなかひれいす量に思えないのだが、実際に考えるときは体を動かすと思いも寄らないアイデアや考えがでることがある。著者も「メモ術についての本」を深夜の散歩会議で、あれこれをアイデアを出し、その日のうちに決まったという逸話を紹介するほどである。

ステップ2「歩く人はアイデアを生み出す」
「情報収集は足を使え」ということは今も昔も変わらない。情報量が多くなった今の方がむしろ重要視されてきている様に思える。
インターネットの検索エンジンは確かに便利なのだが、その中で信憑性はピンからキリまである。しかし歩いている場合は自らの足で信憑性のある情報を得るばかりではなく、その情報を自分なりにカスタマイズを行う、あるいはその情報をもとに新たなアイデアを生み出すことができるということができる。

ステップ3「歩く人は生活がうまい」
歩きながら覚えたり、練習をしたりする事は脳にとっていいことであるのは周知の通りであるが、ここではさらにそれを深く掘り下げられている。本章では五代目古今亭志ん生のことについて触れている。

ステップ4「歩く人は情報収集がうまい」
ステップ2でも書いたのだがいろいろなところを歩いてみるとインターネットでは手にはいることのできない情報をたくさん得ることができる。それも自分で見聞きしたものなので一次情報といってもいいほどである。
その情報をどのように記録するか。メモ帳もあれば著者も使っている「ICレコーダー」を使っての録音もある。またその記録も鮮度が大事ということで早めに活字に起こす事も必要であるという。マグロと情報は鮮度が一番ということか。

ステップ5「歩く人は人脈が広がる」
これもあまりピンとこないが、ステップ1での逸話を考えると合点がいく。それ以上に私自身、勉強会のみならず、知り合いのパーティーに参加するのだが大概、立食パーティーの形式をとっている。歩きながら、初めての人と名刺交換を行う。その中で共通点を見つけながらもいろいろと会話をしていく。時には会話が弾み、30分以上話していたいということもざらにある事を考えると、歩くことは人脈が広がるというのはよくわかる気がする。

ステップ6「「歩く」を知る」
ここでは著者の「歩くロマン」について書かれている。著者の自宅は早稲田にあり、山手線内であればほとんど徒歩で移動しているという。山手線内は江戸情緒あふれるところもあれば江戸時代の歴史がぎっしりと詰まっているところでもある。落語も本章で取り上げられているが、山手線内の駅名がそのまま師匠の別名になることがあった。あげてみると

・目白→五代目柳家小さん
・高田馬場→十代目柳家小三治
・品川→四代目橘家圓蔵
・日暮里→五代目古今亭志ん生
・田端→三代目桂三木助

とある。ほかにも八代目桂文楽は「黒門町」、六代目三遊亭圓生は「柏木」、三代目古今亭志ん朝は「矢来町」で有名だったことを思い出した。

「歩く」こと、当たり前にあることだが、それがどのような力を秘めているのか気づかない人が多い。著者は歩くことを早くから見いだし、20年以上もの間、歩きながら新たな情報を得ながらアイデアを生み出すことに成功した。「歩く」というごく自然な所作を仕事の道具にする事ができる。「メモとレコーダーをもって街にくりだそう」と言われているような気がした。