勝利は10%から積み上げる

かつて囲碁の最強棋士と呼ばれた人物として、本因坊秀策や高川格、藤沢秀行や坂田栄男、趙治勲や小林光一が挙げられた。そして現在、最強棋士を挙げるとすると張栩がいの一番に挙げられる。囲碁界史上初の五冠王、史上2人目のグランドスラム達成をしている。
本書は張栩氏が積み上げてきた「勝負哲学」を、生い立ちとともに取り上げた一冊である。

1章「読みと感覚」
本書の序章は長く、昨年の名人戦で新進気鋭の棋士、井山裕太に敗れた時の状況、来日する前後の心境について書かれている。
そして本章では張栩氏の囲碁で手を打つ場合の基礎的な考え方について述べられている。

・「常に最善手を求める」(p.30より)
・「いい加減な碁は打たない」(p.47より)

これを見ていくと、義父である小林光一と似ているような気がした。

2章「勝利は10%から積み上げる」
本書のタイトルにもなっている「10%」、これはいったい何なのか。これは囲碁で着手する(碁を打つ)、それも勝利に結びつく手を打ち続けることにより、勝利をより確実なものにするのだという。着手するごとに10%の勝利の可能性を生み出すことができるので、「10%から積み上げる」ということを言っている。

3章「勝ちきる力」
「あたりまえのことをあたりまえにやる」
一般的には簡単なことかもしれないが、それを考えているのと、実際に行うのとでは雲泥の差がある。それ以前に「あたりまえなことをあたりまえにやる」ことこそ、実は難しいのかもしれない。
張栩氏のようにタイトル戦をはじめ様々な棋戦で勝利を収めている人にとっては「勝って当たり前」という言葉がまとわりつく。それが続くことにより、その言葉が「重荷」となってくる。しかしそれにもめげず続けていくことこそ、大きな力となる。

4章「効率を考える」
囲碁の対戦にはたいていの場合「持ち時間」がある。短くて数10分〜1時間半、タイトル戦になると7時間や8時間も設けられている。張栩氏はその持ち時間をどのように使うのかについても語っている。私たちのようなサラリーマンでも「時間」といったことを意識するが、囲碁や将棋の棋士の中には前半に持ち時間を湯水のごとく使う人もいると考えると、斬新のように思える。

5章「勝利の流れをつかむ」
いわゆる「対局観」と呼ばれる所である。自らのミスと向き合う、形勢を見極める、ライバルを持つなどが挙げられるが、ここでは初めて挑んだ7番勝負(2002年本因坊戦)や窮地に立たされた時など自ら思い出に残る戦いも例に出している。

6章「支えられてきた道」
人は一人で生きていくことができない。様々な人に支えられながら成長している。張栩氏は小さい頃に台湾から来日し、師匠の林海峰氏を始め、多くの人たちみ支えられたことへの感謝の意を示している。
そして日本囲碁界の現状についても述べている。これは5年前に出版された故・藤沢秀行氏の「野垂れ死に」という本にも指摘されているが、今でも韓国や中国と比べて日本は遅れをとっている。ただ一つだけ違いがあるとしたら、藤沢氏の指摘していた時代は、日本が強かったため、周りはそれほど危機感を感じていなかった。今となっては国際棋戦でも勝てない状況にあるため、危機感は強まっているという所であろう。

現在「日本最強の囲碁棋士」と呼ばれる張栩氏の反省と考え方といったところを、学べる本であるが、畑違いの人たちにも学べるところはある。たとえば対局観、感謝の心、時間配分など学べる要素は多い。