昭和史を動かしたアメリカ情報機関

本書のタイトルにある「アメリカ情報機関」はご存じの方も多いが「CIA」のことである。CIAができたのは1947年の時であり、それまではOSS(戦略事務局)やCIG(中央情報グループ)を経て、国家安全保障法により誕生している。本書で紹介するのはCIAになる前後の諜報活動の考察であるが、便宜上「CIA」に統一している。

第一章「「ルーズヴェルトの陰謀」はあったのか」
ここでは1941年12月8日に起こった「真珠湾攻撃」にまつわることについての考察である。
日本が宣戦布告をせずに奇襲攻撃をしたと言われているが、その中でも様々な憶測があり、外務省内でアメリカに宣戦布告をするのを遅れたという説もあれば、フランクリン・ルーズヴェルトの陰謀だという説まである。
特に後者に関する陰謀について少し書く必要がある。ルーズヴェルトは好戦的であったのだが、大統領に就任する時の約束にて、決してアメリカ側から戦争を仕掛けないと約束をしてしまった。そのため、陰謀を起こしてでも相手側から戦争を仕掛けるという事実を作らなければいけなかった。

第二章「天皇制はいかに残されたのか」
一昨年の秋から冬にかけて東京裁判のことについていろいろと読んできたのだが、その中で不思議に思ったのが「天皇存置」の方針を固めた。それがマッカーサーの指令となり、東京裁判の場で形となった。
しかしアメリカ内でも天皇に処罰を与えろという声もあった中で、アメリカ政府の方針で「天皇存置」を決定するよう暗躍したのはCIA、とりわけジョセフ・グルーという人物であったという。本章ではグルーが行った工作についてを事細かに紹介している。

第三章「ポツダム宣言受諾に導いた対日心理戦」
ポツダム宣言は7月26日にでたが、日本政府・軍部はこれを無視した。その後広島・長崎に原爆が落とされ、ロシアが日ロ中立条約を破棄し、北方領土に侵攻したことからポツダム宣言を受諾したと言われている。
しかしそのポツダム宣言受諾にもCIAが関わっていたとされている。本章ではそれに関わったエリス・ザガリアスとONI(海軍情報局)について書かれている。

第四章「終戦を早めたダレス工作」
終戦工作は日米問わずして行われていた。日本では広田弘毅がソ連を介して終戦工作を行おうとしたのだが失敗し、軍部に圧力をかけられ、首相だった小磯国昭も繆斌(ミョウビン)を介して終戦工作を行おうとしたが、当時の外相である重光葵に強硬に反対され頓挫した。
しかし本書で紹介する「ダレス工作」は唯一成功した例としてある。そのダレス工作で関わりを持つ人物として「東郷茂徳」がいる。

第五章「戦後史の影の演出者」
ここでは参謀二部について綴っている。「参謀二部」は、GHQによる日本占領政策において、政治の分野で暗躍した。ちなみに政治の分野で暗躍をしたのは「参謀二部」だけではなく「民政局」も関わりがあったのだが、両者は対立しながら政治的な工作を行ったとして知られている。
特に「民政局」では左派を支援し、「参謀二部」では右派を支援したという方が分かりやすいかもしれない。

第六章「テレビはいかにして日本に導入されたのか」
日本に初めてTVが導入されたのは1950年前後である。当時TVは高価で「高嶺の花」と呼ばれるものであった。そのTVの誕生についてもCIAの工作があった。本章では著者の前作である「原発・正力・CIA」や「日本テレビとCIA」というのがあるが、それにCIAの暗躍を中心としたものとなっている。

歴史の裏には必ず何らかの形で暗躍する人物や団体がいる。本書はアメリカの諜報機関の第二次世界大戦前後の暗躍についてフォーカスされているが、それらにおける深部について考察されている本はいくつかあるものの、CIAについて書かれている本はなかなかないので為になる一冊といえる。