不況は人災です! みんなで元気になる経済学・入門

今となっては「不況」と言う言葉が常態化している。「失われた10年」を乗り越え、ようやく好景気にさしかかった時も、世間の反応は冷やかであった。それからしばらくして「リーマン・ショック」が起こり再び不況の状態となってしまった。それからずっと景気は停滞状態にあり、先行きも不透明のままである。

しかしこの「不況」という状態は誰がもたらしたのかということが経済学者、もしくは評論家の間で議論される。しかし実際に不況はどのようにしてもたらされたのかというのはなかなか分からないところが多い。海外情勢なのだろうか、それとも世間の動きからというのか、どちらにしろ本書のタイトルにあるとおり「人災」に変わりはないのだが。
本書は景気、そして経済成長、不況のメカニズムについて迫るとともに、「ケインズ理論」を説明しながら新たな経済対策の在り方について提言を行った一冊である。

第1章「よーく考えよう、景気は大事だよ」
本章の章題をみると、何やら聞きなれたようなフレーズがあるようだが。
勘ぐりはここまでにしておいて、経済成長の左右など「景気」というのはたとえば「日経平均株価」しかり、「消費者物価指数」しかり、雇用状況しかり、様々なところに影響を及ぼしていいる。言うまでもなく「景気」は大事であるのだが、景気といっても数字や政府から見る「景気」や、街中で見る「景気」とあり、とりわけ2004年あたりの好景気ではそれらの認識の開きがあった。

第2章「二つの経済成長って?」
政府が掲げる「経済成長」の政策があるが、本章ではこの「経済成長」について「短期」と「長期」のある経済成長を「天井」と「現実」とに分けている。
ひとえに「経済成長」といっても、安定して成長できるわけではない。そこには様々な事柄が重なり、予想以上に経済成長するときもあれば、「リーマン・ショック」のように急激に停滞、もしくは後退するときもある。しかし政府は「天井」ばかり見つめる、もしくはその「天井」があたかも「青天井」のように見えるような成長を思っているのかと思ってしまう。

第3章「先の景気「回復」の原因とは?」
2003年から2007年の半ばまで長い好景気があった、大企業は軒並み最高益を更新し、投資業界も活気が出た。むしろある人物や団体によって大盛況になりすぎたといった方が良いか。
「戦後最長の好景気」と称されるようになった先の好景気であるが、私たちの生活にどのような状況をもたらしたのか、というと「ワーキングプア」や「格差」といったものでしかなかったという人もいるだろう。
経済成長は「需要」と「供給」で「需要」が上回ったときに成長するといわれているが、今回の経済成長がもたらされた要因として輸出高の成長と2003・2004年に行った「円売り」が挙げられている。

第4章「再び不況に転落した理由」
その好景気とともにやってきたのは、かつて急激な「原油高」があった。「第三次オイルショック」と言われる、アメリカやアラブ諸国を中心としたものと言われている。
さらに小麦も2008年に急激な高騰を見せていたのだが、これは経済とは少し違う要因で、最大生産国のオーストラリアで大干ばつが起こり、生産高が減少したことが要因とされている。
しかしこの好景気も「サブプライムローンの焦げ付き」により踊り場にさしかかり、拍車をかけたのは前述のショックである。

第5章「新しいケインズ理論の登場」
かつて「ケインズ理論」を実行した人物が何人かいるが、その中でも有名なのはフランクリン・ルーズヴェルトと高橋是清である。ともに1929年の「ブラック・サースデー」から発端となった世界恐慌時代に政治の最前線にいた人物である。ルーズヴェルトは有名な「ニューディール政策」によって雇用を創出したことでも知られている。
高橋は1929年の恐慌の他にも1927年に起った「昭和金融恐慌」でもイニシアチブな政策をとった。後者では「支払猶予措置」などを行い、庶民を安心させたほか、前者の世界恐慌の時にはリフレーション政策により世界最速で恐慌から脱出したとされている(実際にリフレ派の議論の中核としてこれが引き合いに出されているが)。
2009年あたりに、経済対策として学者や評論家の間では「ケインズ政策」を行うべきというようなことを言われていた。確か「リフレ派」と呼ばれる人物だったろうか。

第6章「金融緩和は誰の見方?」
本書は「金融緩和政策」というよりも、むしろ海外の政党が掲げる「雇用政策」や「経済成長戦略」の検証と言ったところが中心だった。

第7章「デフレ不況を克服する」
現在は「デフレ不況」と呼ばれる状態である。ではそこから脱却するにはどうしたらよいのか、という議論に入る。その中で本章では、これを掲げている。

・インフレ目標を立てる
・最低賃金を引き上げる
・福祉分野への投資の強化

1つ目が一番印象的である。もっとも「インフレ目標」は政府でも経済学者でも主張している人物が少ないからである。

不況になった要因はいろいろあるのだが、本書のタイトルにあるように「人災」であることに間違いはない。しかし
学者や評論家の一部には犯人探しや提言のイチャモンに執着をするものもいる。そうではなく、「人災」である以上犯人探しをする以前に、経済とは何なのか、成長をするためにはどうしたらよいかを探し、実行することが先決なのではないかと思った。