東西豪農の明治維新―神奈川の左七郎と山口の勇蔵

明治維新はまさに「激動」と呼ばれた時代であった。新撰組や坂本龍馬、さらには薩長同盟など様々な人物が活躍し、約240年経った現在でも鮮烈な記憶を残し続けている。

さて本書はそのような所から少し離れた所、ちょうど農民にあたる人物たちがいかに幕末、そして明治維新を体験したのかについて神奈川の山口左七郎、山口の林勇蔵の2人を取り上げている。

前半は左七郎の生涯を取り上げているが、農業にまつわる日記、税や土地にまつわる訴訟、さらには「自由民権運動」にも関わっていた。「豪農」は農民の中でも最も上級階級の一つであり、政治との関わりもゼロではない。とりわけ士工農商とはっきりとした階級が崩れている事を考えると政治とのパイプもつくりやすい土壌になっていると言うのが窺える。

一方、林勇蔵は山口の豪農。山口と言えば長州の一部であり、吉田松陰が生まれ、育ち、とらえられた「野山獄」や「松下村塾」がつくられた所でも有名である。激動と言われた幕末の中心地の一つといえる所である。その場所で豪農をしていた勇蔵はどのような活躍を遂げたのだろうか。大きな物では、かつて「暴れ川」と呼ばれていた「椹野川(ふしのがわ)」の治水工事に関わっていた。当然治水工事をするためには豪農の資金のみではまかなえない。そこで井上馨や山県有朋らに働きかけ国から資金を調達すると言うような事を行った。

これまでの歴史は武士や藩士、貴族と言った人たちの視点が非常に多かったが、本書のように豪農について取り上げられた本はほとんど無い。その面を考えると希少であり、かつ貴重な一冊と言える。