私たちには物語がある

著者は「八日目の蝉」をはじめ様々なベストセラーを世に送り出した作家の約6年間の読書遍歴、及び書評について取り上げられている。私もSEである傍ら書評も行っている。一方でどのような職業が書評を行うとどのような本を取り上げたり、どのように本を評価していくのかが気になるところである。本書は「ベストセラー作家」という視点では本をどのように見ているのかについて見て行こうを思う。

Ⅰ.「本のある世界でよかった」
本章のタイトルをみると私もつくづく思ってしまう。私も小学校の頃からずっと本との関係は続いている。とりわけブログで書評を書き始めた大学4年生の頃からはなおさらそう感じてしまう。
本章では著者がもっとも印象に残った本を数冊紹介しながら、2003年以前の読書遍歴を紹介している。
著者は詩が苦手であると言うが、その理由も著者曰く、見下されているような感じがすると言うところが何とも独特である。

Ⅱ.「読書の部屋① 2003-2006」
本章と次章では読売新聞や朝日新聞を始め多くの媒体に掲載をした書評を掲載している。
本章では前編として2003年〜2006年の作品を紹介している。「グロテスク」や「容疑者Xの献身」などのベストセラー作品も取り上げられているだけではなく、著者自身の観点で選んだ本も取り上げられている。ベストセラー作品の取り上げ方もなかなか面白いのだが、私としては後者の方が著者の思いが如実に出ている故、興味深く描かれている。

Ⅲ.「読書の部屋② 2007-2009」
前編に続いて多くの媒体に掲載された書評を取り上げられている。主に読んでいる本の多くは、職業柄か文庫、ハードカバー問わず「小説」がほとんどである。独特な言い回しやストーリー、表現などが小説を書くに当たっての材料となるからと考えられる。
とはいえ本章では少ないものの新書も紹介されている。中でも、当ブログで紹介した「川島芳子 男装のエトランゼ」は著者の切り口は知識と言うよりも、むしろ「思い」の変化が中心となっているだけに面白い。新書の考え方の変化についても興味深かった。

本書のあとがきには著者が作家になった経緯と作家になって20年の歴史と思いを綴っていた。これから小説家になりたい人、作家になりたい人にとっては必読といえる。ベストセラー作家の苦悩と新人時代の話は何者にも変え難い貴重な話だからである。
作家生活を続けながらも著者は数多くの本に出会った。その出会った本の中で小説を書く原動力になったり、心境の変化が生じたりした。小説のみならず、本は自分を変える一助となる、そう感じた一冊であった。