ニッポンの書評

著者の豊﨑氏の前書はいくつか呼んだことがあり、「正直書評。」など当ブログにて取り上げているものもある。日本でもっとも有名な書評家の一人であり、過激かつ痛快に評していることでも知られている。これも「本が好き」だからと言う言葉の裏返しなのかもしれない。
その豊粼氏が書評のあり方についてAmazonレビューや私のやっている書評ブログにまで言及をしている。「ガター&スタンプ屋」である著者がどのように書評を論じているのか見てみよう。

第1講「大八車(小説)を押すことが書評家の役目」
第2講「粗筋紹介も立派な書評」
正しい「書評」とはいったい何なのか、「書評」と「批評」の違いとは何か、「書評家」の存在とは。
私も「書評家」の端くれであるが、それを名乗り始める前後から葛藤は続いている。今でもそれを答えを求めようと様々な書評を読んだり、自らも書評を書いたりしているのだが、いっこうに結論は見えない。
小説に関しても「書評家」という肩書きのある方は軒並み「小説」を書評している。「小説」以外にも土井英司氏はビジネス書専門の書評家であり、その道の「大家」である。
若輩者の私がいうのも何なのだが、書評家は「小説」だけを書評していれば良いのだろうか?とつくづく思ってしまう。
あと書評は小説など書籍を取り上げながら私見を述べていくものである。オリジナル作品を描くよりも本の内容や粗筋といったものを紹介しながら、と言うのがほとんどであるが、それらを「どこまで取り上げるか」というところが非常に難しい。しかし粗筋や内容の取り上げ方こそ「書評家」の腕の見せどころと言える。

第3講「書評の「読み物」としての面白さ」
第4講「書評の文字数」
第5講「日本と海外、書評の違い」
「書評は一つの文芸である」
書評界では大御所中の大御所といえる丸谷才一氏の言葉である。それを形にすべく「毎日書評賞」が毎年のように開催されており、書評文化の発展に貢献をしている。
書評文化は様々な形で形成づけられていることは否定できない。
書評というと避けて通れない媒体では新聞や雑誌といった活字媒体がある。著者はメジャー・マイナー問わず様々な書評欄を分析しており、しかも文字数に関しても細かく分析されている所は勉強になる。あとそのことに関して毎日新聞のことを絶賛されているが、これは丸谷才一氏の影響によるところもあると推測できる。
字数もそれなりにあるのが日本の書評であるが、海外と比べてみるとどうやら「多さ」と「深さ」にかけているのだという。第5講にてそれを分析しているが、海外のそれと近い位置にあるものというと、書評ではないが松岡正剛氏の「千夜千冊」を連想してしまう。

第6講「「ネタばらし」はどこまで許されるのか」
第7講「「ネタばらし」問題 日本編」
「ネタばらし」というと第2講の「どこまで取り上げるか?」と連結しているところがある。私の知り合いである「書評ブロガー」の話である。私と彼と彼の友人らが参加したあるセミナー後の懇親会にて、彼の友人が、彼のブログに対して
「あなたのブログを読むだけで満足。本を買う必要がないのだから」
と言われた。
彼がこのことに対してどう思ったかは知らない。しかしそれが私に対しても向けられていたら、これほど不名誉な言葉は無い。なぜなら書評を媒介として本の購入への欲望を引き立たせるために書評を書いているのが私、ひいては当ブログのポリシーである。
一見関連性が内容に見えるが、「ネタばらし」という観点でも、これは関連できる。私も小説に限らず様々な書評に関してはもっとも気をつけていることである。ばらす内容をあらかじめ決めながらどこを引き立てていくかを意識している。読んでいくうちに著者とも何か共通しているように思えてならない。

第8講「書評の読み比べーその人にしか書けない書評とは」
第9講「「援用」は両刃の剣―「星家族」評読み比べ」
第10講「プロの書評と感想文の違い」
第11講「Amazonのカスタマーレビュー」
第12講「新聞書評を採点してみる」
同じ本でどのように書評をするのか。ここでは豊﨑氏の観点から、書評ブログやAmazonレビューについて評しているが、前にも先にもこれらを書籍にて取り上げた人は私の知る限りでは誰もいない。むしろ初めてのことではないだろうか。それだけ書評にたいして「思い」があるという裏返しなのかもしれない。

第13講「「1Q84」一・二巻の書評読み比べ」
第14講「引き続き、「1Q84」の書評をめぐって」
ここでは大ベストセラーとなった村上春樹の小説「1Q84」の第一・二巻のプロの書評を比較して著者も書評を交えて解説を行っている。時には批評者との場外乱闘(?)もあり、という激しく、かつ痛快と言える内容である。

第15講「トヨザキ流書評の書き方」
豊﨑氏の書評術がついに公開される!と言える所である。他人の書評に関して批判しているが、自分はどうなのかというのを明かさないと示しがつかない(?)為であるという。

最後になるが、おそらく本書は私たちに送られた「疑問書」と言えるものなのかもしれない。著者もその葛藤が遭ったのかもしれない。そのことを考えると本書ほど「私が書評すべき一冊」と言える。ほぼ毎日のように様々な本を書評しているのだが、それについて様々な「疑問」や「不満」を持っている。私は2007年に書評を始めて4年数ヶ月しか経っておらず、書評のイロハに関してもまだまだわからないところが多かった。本書はすべての書評家・ブックレビュアーに対して学ぶ要素の多い「必読」の一冊である。