日本に限らず世界中でも飲まれているアルコール飲料の中で「ビール」がある。ちょっと面白い話を聞いたのだがロシアではこれまでビールは「アルコール」として扱われなかった。今年になってようやくアルコールと認められたそうだ。スコッチウィスキーなどアルコール度数の高い飲み物と比べると少ないのでアルコール飲料に値しないという考えもある。
それはさておき、本書はビールのルーツを探るとともに、ビールがどのように進化していき、そして愛されていったのかという系譜を追っている。
第1章「ビールのルーツを探る」
ビールが作られ始めたのは今から約5000年も前、ちょうどエジプトやメソポタミアで文明が栄えていた時代である。
そのときのビールの意味合いは「文明人の仲間入り」。簡単に言えば「狩猟や放浪生活」を行うことができるようになるという。今で言う「成人」にあたるのだろう。
第2章「古代オリエントで栄えたビール造り」
古代オリエントの時代は紀元前3000年から100数十年のことを指し、主にエジプト王国の時代において、ビールがどのように使われていたのか、さらにハンブラビ法典についても書かれている。
第3章「ゲルマン人が愛したビール」
ヨーロッパ大陸でビールが飲まれるようになったのは紀元前1世紀、ガリアやゲルマン(今のベルギー・フランスやドイツ)で飲まれ始めた。もっとも「本場」と呼ばれるようになったドイツはこのころから飲まれはじめており、ガリア戦記でもユリウス・カエサルは自ら飲むばかりではなく、士気高揚のために部下に飲ませることもあった。
第4章「ビールとホップと出合う」
現在ではホップを使ったビールが一般的であるが、前章まではパンを使用したり、味付けに香辛料などを使われることが多かった。では現在の「ポップ」が使われ始めたのはいつ頃か、というと中世ヨーロッパからのことである。
第5章「中世の醸造所とビール職人」
中世におけるビールの醸造や品質調査、さらにはドイツが「ビール王国」と呼ばれる所以となったエピソードについて綴っている。とりわけ後者は次章にもまた違ったエピソードがある。
第6章「ラガービールを育てたビール王国」
前章に引き続きドイツが「ビール王国」と呼ばれた所以について綴っている。前章とも読んでみると、「常識」や「普通」という言葉がどこか彼方に飛んでいってしまうような感覚に陥ってしまうほどである。
第7章「伝統的なエールを守るイギリス」
「ビール」の呼ばれ方も国それぞれであり、はっきりと「ビール」と呼ぶ国もあれば、「エール」と呼ぶ国もある。後者は主にイギリスにて呼ばれることが多く、有名なイギリスビール、「バスペールエール」があることを考えると、そう呼ばれるというのがよくわかる。
第8章「近代科学を育てたビール醸造」
「ビール」と「科学」
一見つながりが内容に見えるが、その実は「発酵」という観点からみると「微生物学」の範疇でつながりがある。科学・生物学で多大な研究を遺したパスツールもその発酵に着目し、1876年に初めてビールにまつわる論文を発表した。
第9章「ビールの巨人、アメリカン・ラガー」
アメリカではイギリスからの移民も多かったため、「エール」と呼ばれるイギリスビールが作られることが多かった。しかしその移民も多様化し、ドイツなどの国々のビールも伝えられ、やがてアメリカ独自のビールも作られた。
第10章「日本のビール事始め」
日本で初めてビールが飲まれたのは1700年代のころ、ちょうど鎖国していた時の頃である。当時は完全に海外との貿易を断っていたわけではなく、例外として中国大陸とオランダのみ貿易が許されていた。そのオランダから日本にビールが伝来してきたのが始まりとされている。しかし当時は船舶による貿易であり、ビールも海風にさらされ傷んでしまったせいか、印象は良くなかった。
第11章「ビールが日本の生活に馴染むまで」
最初は印象が悪かったビールも次第に独自の製法、さらには輸入方法の改善により印象は良くなったものの、そうなったのは明治時代に入ってからのことである。その時代のビールはどちらかというと「ぜいたく品」であり、普段はあまり手の出せないほどの代物であった。
そのビールが日常的に飲まれるようになったのは戦後からのことである。
ビールの歴史を追っていくと、かなり長く、世界史をビールで埋め尽くすことができる。もっというと高校の歴史の教科書を「ビール」に置き換えることもできるほどである。それだけビールの奥深さと広さを知ることができる。そして本書を読むとビールの味も深を増す、かもしれない。
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