雪姫(ゆき)―遠野おしらさま迷宮

岩手県の遠野というと「河童」が有名である。私だけかもしれないが「遠野=河童」という固定観念に支配されているのかもしれない。

元々は「遠野物語」の説話により生まれたものであるが、この作品は最も有名な民俗学者の一人である柳田國男が1910年に発表した作品である。昨年はその発表100周年を迎えることを考えると、「遠野物語」フィーバーと呼ばれるのかもしれない。事実昨年は「遠野物語」に関する作品が次々と取り上げられている。

本書も昨年出版されていただけに、その波に乗っている印象も拭えないのだが、本書はいつも出てくる様な「河童」や「座敷童子」ではなく、「雪姫(ゆき)」や「おしらさま」が登場する。後者の「おしらさま」は東北地方では「家の神」として知られているが、それ以外の地方ではあまり知られていない(私も初めて知った)。

本書はその「遠野物語」と現代とを重ね合わせ、あたかも怪談の如く描いている。遠野物語は有名であるが、主人公を含め現代そのものがその作品の中に飲み込まれていくように、悲しさと暗さ、そして日本人そのものの描写が鮮明に描かれていた。