メジャーリーグのWBC世界戦略

再来年の3月に第3回WBC(World Baseball Classic)が開催される。しかし前回・前々回覇者の日本代表は参加するかどうかのところで主催者側と揉めている状態で、参加するかどうかですら微妙なところである。

本書の最初の部分でも述べられているようにこのWBCの収益システムはMLBにかなり有利に働いているようであるが、そのメカニズムをどのように構築し、さらにMLBはWBCを通じてどのような戦略を組み立てているのだろうか、というのを追った一冊が本書である。

第一章「マネジメント」
MLBも例外なく「ビジネスモデル」の一つとして挙げられている。進化なくしては「ビジネス」は成り立たない。そう考えると日本球界は「ビジネス」なのか、と問われるとそうだという側面とそうではない側面の両方が存在するように思えてならない。
日本球界については別の本で詳しく紹介することにして、本章ではメジャーの進化とグローバル化を狙いWBCの構想に至った思惑について考察を行っている。

第二章「マーケティング」
日本もそうであるがアメリカでも野球は国民的スポーツの一つであるが、その確固たるものとしてMLBがある。MLBはNFLやNBAとならび国民的スポーツを支える屋台骨といえるが、選手層ではほとんどがアメリカ人である一方でその比率は4人に3人であるという。さらにアメリカの経済急降下により球場の命名権を売ることもあり、もはやアメリカだけのMLBではなくなった。

第三章「ブランディング」
MLBを支えているのはアメリカ人ばかりではない、アメリカにとって「助っ人外国人」と呼ばれるドミニカ人やベネズエラ人もいるが、松井秀喜やイチローら日本人も「助っ人外国人」の一部である。
もっとも、第1回WBCにて、ヒットや盗塁などを生かした「スモール・ベースボール」が話題を呼び、MLBビジネスのターゲットが日本にシフトしつつある。

第四章「ストラテジー」
アメリカンスポーツの選手スカウトターゲットの目がアジアに向きつつある。その一つとして第三章で述べたMLBでの日本人の活躍や、ヤオ・ミンの活躍もあったNBAなどが挙げられているのも窺える。

第五章「トレンド」
MLBはトレンドを的確に捕らえながらMLBの市場規模を育て上げている。一方日本球界はどうなのだろうか。本章では「時代遅れ」と断じている。第一章のところで述べたように、ビジネスの側面とそうでない側面が存在する現実がある。日本球界に嫌気を指している日本人球児も少なくなく、社会人野球からMLBに入った田澤純一(現:ボストンレッドソックス)もその一人である。

MLBがいかにWBCによって戦略が立てられているかがよくわかる。ではWBCは誰のための大会なのか。全世界の野球人のためなのか、あるいはMLBのためなのか。そう考えると間違いなく後者のように思えてならない。