八月の魔法使い

「事件は会議室で起こっている」

これは「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」にて真矢みき演じる沖田仁美が、織田裕二演じる青島俊作に初めて会うなり言った言葉である。本書はまさにその言葉を形にしたような一冊と言えよう。

私たち庶民が官僚や国会議員が不思議な世界であるように、会社によって異なる世界を「不思議な世界」ととらえてしまう。会社と一口に言っても会社の規模、業種など様々であり、その中での人間模様も様々である。

本書は現役の会社員がある事故や後継者争いについてを描いている会社ミステリー作品と言える。「ミステリー」と言うと殺人が起こったり警察による臨場感あふれる取り調べを連想してしまうが、本書のような「会社ミステリー」にはそういったものはなく、むしろ会社内の人間関係の「あや」を忠実に描きながら臨場感を展開という印象を受ける。

「会社」を題材にした作品は江上剛氏の作品を始め数多く取り上げられている。しかしそれは「経済」にまつわるものが多いのだが、本書はそうではない。「事故報告書」を題材にした「事件」を取り上げられているため、会社員である私でもいわゆる「デジャヴ」のような感覚に陥ってしまう。そういった意味で本書はミステリー界に新たな風穴を開けた、と言っても良い一冊である。