「エスノグラフィー」は何かというと、邦訳にすると「民族誌」であり、
「調査対象に深く入り込み、参加者を考察することによって、内部の見解を解明するためのフィールドワークの方法」
のことである。この言葉は近年使われ始めたためか、その言葉を聞く人はほとんどいないが、だんだん使われ始めているのだという。
本書はその「エスノグラフィー」を様々な「組織」を対象にどのようなものかを伝授した一冊である。
第Ⅰ部「導入―組織エスノグラフィーとは何か」
さて、「エスノグラフィー」という意味は理解できたのだが、「組織エスノグラフィー」とはいったい何か。ここではそこについて解き明かしている。
とはいえ「組織」とはどのようなものを指しているのかは、ここでは示されていない。広義についての「組織」を指しており、会社や団体など特定したものではない。その中でエスノグラフィーの方法についてここでは論じられている。
第Ⅱ部「3つの告白―組織エスノグラフィーの実態」
本来は最初に書くべきであったが、本書は日本内外でエスノグラフィーに関する研究をしている4人の学者の共著である。4人それぞれの研究者が自らの研究人生を明かしながら、どのような組織で「エスノグラフィー」という手法を用いて研究したのか、について記されている。もっともここで研究対象となった組織は「矯正施設」「暴走族」など見るからに物騒なものから、演劇界と言ったところを対象にしている。
それぞれの世界をエスノグラフィーにより、浮き彫りとなった疑問や考察が浮き出てきており、それらを論文にするまでのプロセスは斬新でありながら、かつ、ここでも言われている通り「黒い報告書」のようなものになってしまう、という研究者自身の葛藤も出ているため、忠考察を行った論文よりも人間味があるため、新鮮味があった。
第Ⅲ部「組織エスノグラフィーの過去・現在・未来」
これから「エスノグラフィー」の手法を用いたい人、そしてエスノグラフィーのこれからを第Ⅰ・Ⅱ部の考察をもとに提言をしている。考察、というよりも学生のためのアドバイス、といえるような所である。
「エスノグラフィー」は最近できた研究手法であり、民族学でよく使われる「フィールドワーク」が中心である。そう考えると亡き梅棹忠夫氏が提唱した「知的生産の技術」にも似ているのではないか、と思いさえする。とはいえ、エスノグラフィーの手法は学問のみならず、ビジネスでも使える可能性があるのではないか。本書ではそのような可能性を見いだせた一冊である。
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