海の石

彼女は「石」のように何も動くことができなかった。
そう、筆談に出会うときまでは。
未熟児として生まれ、様々な病を併発し、命の淵に立たされ続けた。
しかし、筆談に出会ってから、かすかな光が見えた。
暗闇の海に見える、一筋の光のように。
病床の中で出会った筆談、
そこからいのち、言葉、自分、感情、家族・・・
様々なことを「詩」という名の命を吹き込んだ。
「石」は他人の力で無ければ動かない。
しかしその「石」は光り輝くことができる。
本書は著者が初めて詩を書いた時から震災までの時の詩を綴っている。
かつては路傍の「石」の如く、家族や仲間以外、誰も相手にされない「石」だったが、
詩と出会って海から差す日光の如く海の中に光り輝く「石」のようになった。
そしてあの震災―
その「石」は、苦しみ、嘆き、迷える人々の光となった。