精神科医の観点から本を「診る」、というのもユニークである。本書の著者である小西氏は10年以上も前から毎日新聞の「毎日の本棚」欄にて書評を書き続けた。その書評のヴァリエーションは著者の専門である医学のみならず、小説や雑学に至るまで幅広く、難易度も問わず、あらゆるの書評を行っている。
本書は10年以上続いた「毎日の本棚」にて掲載された書評を独自の観点からカテゴリーに分けて紹介している。
第1章「隣の芝生はホントに青い?」
「隣の芝生」それは自分とは観点も身なりも違う赤の他人。その人は清廉なのだろうか、それとも荒んだ人なのだろうかはわからない。しかしそれらも本を通して「診る」と見えてくるものもある。本書は自らの専門分野から少し近い位置に当たる本を中心に紹介されている。
第2章「あなたと私は遠くて近い」
著者と読者の距離は作品によって近かったり、遠かったりすることもある。「遠くて近い」も強ち間違いではない、と様々な本を呼んでいる私でも思っている。
ごく日常にある人間の話や私たちでは想像し得ないような人物など、それらも本を読めば誰しも距離が縮まる。本章では様々な人物にまつわる本を紹介している。
第3章「プロの世界」
最近ビジネス書のコーナーでは「プロフェッショナル」を冠する本が乱舞している。それ以前から「プロフェッショナル」という言葉について色々と考えるのだが、その度に十代目柳家小三治の言葉を思い出す。
それはさておき本書では古今東西、様々なプロフェッショナルな人にまつわる本を紹介している。
第4章「心の居心地」
著者の専門分野である精神医学や「心」にまつわる本が多い。本書では小説や教育、精神にまつわる本をさらに専門的に掘り下げて斬り込んでいる。
第5章「読み出したら止まらない「お楽しみ」」
「お楽しみ」という言葉ほど、好奇心をくすぐるようなものはない。それにお楽しみと呼ばれる本ほど「読めば読むほど」おもしろさが増してくる。そういった文章に出会うほど読者冥利に尽きるものはない。
本章ではそういった本を紹介しているが、「ハリーポッター」や「ナルニア国物語」など世界的にベストセラーと呼ばれる本が中心である。
精神科医に限らず、医者や学者が本を評するとなると、自らの専門に関する本に偏りがちになる。しかし著者は偏食にならず、様々な本を時事的なものを絡めながらおもしろく斬っている印象がある。10年以上書評を行っている賜物という印象を、本書を読んで思った。
コメント