望月青果店

「ふるさとは 遠きにありて 思ふもの(室生犀星)」

仕事などの理由により、故郷から離れた場所で生活をしていてもその記憶は残っている。イヤな思いでがあって「故郷を捨てる」ことがあったとしても、頭の片隅にきっと残っている。そしてその故郷に帰るとその記憶とそこにある感情はとたんに爆発する。本書はその記憶を辿り5年間離れていた女性が故郷に戻って見つけた思いでを綴っている。

ちょっと話から反れるが、本書を読んで少しドキッとしたところがある。本書の内容というよりも地名として「旭川」がある。私の出身地なのではないか、と一瞬疑ったが、そうではなく、岡山県には「旭川(あさひがわ)」という川があり、そこのほとりに本書のタイトルであり、主な舞台である「望月青果店」が存在する。

記憶というのは辛いも、甘いも、苦いも、甘酸っぱいもある。とりわけ「甘い」「甘酸っぱい」は幼き記憶として鳥わけ印象的に残ってしまう(多少の美化はあるものの)。そしてその「記憶」はなかなか忘れることがない。そしてその「記憶」が甘く酸っぱい思いでを呼び起こし、物語を作る。章構成もすべて果物になっており、それらの味そのものを忠実に描いている。