中東 新秩序の形成―「アラブの春」を超えて

中東諸国では長らく独裁政治により、様々な「自由」が束縛されていった。むしろ「恐怖政治」と呼ばれるがごとく国民は恐怖に怯えつつ、度重なる政策によって疲弊しつつしていった。

その不満や憤懣がたまりにたまり、2011年1月、エジプトを発端とした大規模デモが起こった。そしてそれが中東やアフリカ大陸にまで波及し、世界的な話題となっていった。通称「アラブの春」と言われているが、そのなかでエジプトやリビアなどの国々では独裁政権が崩壊し、民主化へ道を進めていった。

本書はその「アラブの春」のその後と、バーレーンとシリアの現状、そして民主化への道と日本との関係について考察を行っている。

第一章「体制変革と体制内変革」
「アラブの春」によって体制そのものが変わった国もあれば、体制の中で変わった国もある。民主化するか・しないかの差によるかもしれないが、「変わる」ことに変わりはない。

第二章「民主化の陣痛」
民主化に向けて動いた国は様々であるが、結果が国によって大きく変わった。民主化に向けて進み出した例、民主化にすらならず、弾圧がさらに強まった例、政権は崩壊したが、「無政府状態」に陥ってしまった例をそれぞれ、リビア・シリア・イエメンの例を紹介している。

第三章「湾岸諸国の知恵と戦略」
中東諸国でも民主化の動きが見られたが、その民主化の中でもっとも大きな障害となったのが「宗教対立」あるいは同じ宗教の中の「宗派対立」が起こる。バーレーンはその中の後者が激化したことにより民主化が頓挫したと言われている。
「アラブの春」に関する本でも何度か言ったがこのバーレーンの民主化運動により昨年のバーレーンGPが中止となった。そのことから私自身も本章に関心がある。

第四章「よみがえった帝国」
イスラム諸国のなかで「民主化」を進めていった国もあれば、核兵器を保有することによって先進国と対等な関係をもつことを目指す国も存在する。本章では後者を目指すイラン、そして前者を忠実に実行しているトルコの違いについて考察を行っている。

第五章「グローバル中東の政治力学」
世界的に「グローバル化」は止まらない。
それは中東諸国やアフリカ大陸でも同じことであるが、その「グローバル化」の中で悩みの種に挙げられるのが、アメリカにとって「外交問題」、第四章にて述べたイラン、そしてパレスチナ問題である。
とりわけパレスチナ問題はアメリカにとっても宗教対立以上に中東諸国との外交をするにあたり避けて通れないこともあるが、イラク戦争やアフガニスタン侵攻もあり、中東諸国はアメリカに対して良い印象を持っていない国が多い。

第六章「日本・中東新時代の戦略的パートナーシップ」
中東諸国が持つ日本の印象はアメリカほど悪いものではない。むしろまだまだ良い方であるが、原油高騰による経済的な逼迫している要因として挙げられているため、石油の利権を得る・守るなどの観点を含めれば良い印象だけではなく、戦略的な利害関係を築いたパートナーシップの構築が大切であるという。

中東諸国は政治的にも経済的にも看過できない場所となったのは言うまでもない。別の話になるが、昨今では日本は領土を巡って韓国・中国との対立が深まっている。そのときだからでこそ中東諸国などの関係諸国の関係を深めながら戦略的なパワーゲームを作ることが大切である。
外交ほど国にしかできないことはなく、かつ武器や防具のない、「コミュニケーションの戦争」なのである。