本書のタイトルである「ミッシングリンク」は直接訳すと「失われたつながり」のことをいう。
日本の情報通信産業にはそういったものがあり、それが国際競争力の強化を妨げている原因として挙がっている識者も少なくない。
本書はどのようなところで「ミッシングリンク」があるのか、そしてそれを解消するための処方箋とは何かについてを提言している。
1章「機器とサービスはつながっていない」
簡単に言えば携帯電話・スマートフォンとその周りのサービスとのつながりのことを表している。携帯電話・スマートフォンの進化はめざましく、年々新しい機能をもった物がでてきているほどである。
しかし、アプリ開発やクラウドといった技術は日本は遅れをとっているどころか、携帯電話とリンクしていることが少ない。その現状を打破するためにはプラットフォームの確立が大きな課題であるという。
2章「供給者と利用者がつながっていない」
日本は商品開発と買い手の目利きは世界一である。その一方でサービスに遅れをとっているのだという。
それが浮き彫りとなったのが「東日本大震災」における、Googleの「パーソン・ファインダー」である。簡単に言うと、インターネットを通じて安否情報を確認しようとしたが、「個人情報保護」が足枷となり思った以上に見つけることができなかった。その一方で「パーソン・ファインダー」機能は個人の許可は不要で個人の写真を共有化することにより、迅速に見つけることができたと言う事例がある。
個人情報保護を批判するつもりではないのだが、それが「情報流通」の妨げとなるのであれば見直す必要があるのではという提言もなされている。
3章「情報通信産業と他産業がつながっていない」
クラウドや情報サービスを生産する情報通信産業とそれを利用する他産業とのつながりが薄いと言っても過言ではない。とりわけその印象が強いのは中小企業や町内会などの小さな団体が顕著である。
導入コストもそうなっている要因の一つとして挙げられるが、「クラウド」を利用することによって低減することができるのだという。
4章「国内市場と海外市場がつながっていない」
近年「グローバル化」と呼ばれているのだが、想像以上に情報通信における国際化に向けた競争は後れをとっているのだという。
その要因としてコスト削減ばかりに目がいっていることも一つ、さらには海外との競争を想定していないことも一つとして挙げられている。
5章「官と民がつながっていない」
4章と共通するのだが「官」と「民」とのつながりも情報通信産業の国際化が妨げられている要因の一つとして挙げられている。理由には「コンプライアンス(法令遵守)」もあるのだという。ようはデータそのものを海外のデータセンターに預けることができるのか、そしてその海外の法律で個人情報保護が行われるのか、というリスクが存在する。「リスク」そのものを忌避したがる日本人であるが故にそれもネックとして挙がり、「クラウド化」「グローバル化」できない状況にある。「インターネットの自由」「表現の自由」の議論にまで及ぶのだが、それを発展するためには「官」としても各国の対立を解消するための「外交」もその一つの手段としてある。
5つのミッシングリンクを紹介したのだが、章が重ねるにつれ、情報通信産業の問題の根深さがよくわかる。しかしそれらの問題を一つ一つ解決をしていかなければ「デジタル大国」を確立できないことも言える。栄枯盛衰という言葉があるとおり、「ものつくり」では世界一だとしてもいつかは衰退する。新たな「世界一」を作り出すチャレンジが日本、そして日本人に求められているということを暗に警鐘を鳴らしているように思える。
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