湖水爆発の謎を解く カメルーン・ニオス湖に挑んだ20年

1986年8月21日
アフリカのカメルーン共和国で全く新しい自然災害が起こった。ニオス湖と呼ばれる湖で、「湖水爆発」が起こった。「ニオス湖」はカメルーン西部にある湖であり、元々「火口湖」と呼ばれる湖であるのだが、「湖水爆発」そのものも知られていなかったため、その周辺にいた住民1,746人、さらには多くの家畜が死亡する大惨事となった。本書はその原因と引き金など、「湖水爆発」の謎とともに、災害のメカニズムと対策方法についてを著者の体験をもとに記している。

第1章「ニオス湖ガス災害」
ニオス湖の湖水爆発は最初にも書いたのだが、その2年前にちょうどその前兆にあたる「ガス吹き出し」が起こった。そのときも住民74人が死亡した。

第2章「ニオス湖で何が起こったのか」
著者は災害発生から6日後、政府から発行された「委嘱状」によりカメルーンへと渡った。「有毒ガス災害にまつわる調査として」である。初めて行くカメルーン、そこからニオス湖に向けての道、そして災害地への調査にまつわるエピソードをつづっている。

第3章「一九八七年ニオス湖災害国際会議」
第2章における調査をもとにカメルーン政府、国連開発計画(UNDP)、国連教育科学文化機関(UNESCO)らのスポンサーのもと「ニオス湖災害国際会議」が行われた。その中でも意見交換が行われ、全容解明に向けての第一歩となった。

第4章「カメルーン火山列」
日本は様々な火山がある、いわゆる「火山大国」といわれているが、カメルーンも「火山列」と呼ばれるとおり、様々な火山が連なっている。本章はその火山列を地学的な観点で考察を行っている。

第5章「ニオス湖の特異な化学組成と成層構造」
世界には様々な湖があり、その中の湖水の科学物質は異なっている。中でもニオス湖は他の湖とは異なっているところを化学の観点から考察を行っているが、かなり専門的に突っ込んでおり、化学組成・成層構造について基礎がしっかりしていないと取っつきにくい章と言える。

第6章「湖水爆発の引き金は?」
その「湖水爆発」の引き金はいったいどこからなのだろうか。原因には二酸化炭素(CO2)の自然蓄積によるものと著者は推定している。

第7章「ニオス湖・マヌーン湖ガス抜き計画(NMDP)」
原因が推定し、いよいよ「対策」として「ガス抜き計画(NMDP)」がスタートした。第5章から第6章にかけて、原因が特定するまで20年以上かかり、第7章の対策実行が行われたのは2001年。いかに問題が複雑で、かつ国際的のパワー関係などが絡み、時間を要してしまったと言えよう。

第8章「湖水爆発の反復性と伝承」
ガス抜きを行ったニオス湖やマヌーン湖では昔から二酸化炭素がたまりやすい湖であった。その理由は周辺に住んでいた民族が古くから伝わる「伝承」として残っている。

第9章「湖水爆発は日本で起こるのか」
本書の読むに当たり一番気になるのがこの「湖水爆発」が日本で起こるかどうかである。何せ日本は「火山大国」と呼ばれている国である。ニオス湖のような「火山湖」は「蔵王のお釜」や「草津白根山の湯釜」などが存在しており、とりわけ後者は1882年に噴火をしている。
しかし日本は四季折々の変化があり、ニオス湖のような「湖水爆発」はないと断定している。その理由を本章にて詳しく説明している。

第10章「ニオス湖ダムは決壊するか?ー二重苦のニオス湖」
ニオス湖の周りには天然ダムが存在しているという。湖が湖水爆発し、そのことによりダムが決壊すると、洪水がおこり、火山ガスと洪水という二重苦と隣り合わせの地域であるという。

第11章「発展途上国の抱える問題」
ガスの成分などフィールドワークを通した調査の中で「発展途上国」ならではの問題を肌で感じたという。

著者は1986年のニオス湖湖水爆発より20年もの間、定期的にカメルーンに渡り調査を続けてきた。その中で気づいたこともあるのだが、様々な関わりによりここまで研究を続けることができた。本書はその結晶と謝辞が詰まっている一冊と言える。