シリーズ「『貞観政要』を読む」~5.巻四<太子諸王定分><尊敬師傅><教戒太子諸王><規諫太子>~

<太子諸王定分第九>

君子の子供である太子との接し方について説いた章です。

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昔魏武帝寵樹陳思,及文帝即位,防守禁閉,有同獄囚,以先帝加恩太多,故嗣王從而畏之也。此則武帝之寵陳思,適所以苦之也。且帝子何患不富貴,身食大國,封戸不少,好衣美食之外,更何所須。而毎年別加優賜,會無紀極。俚語曰:『貧不學儉,富不學奢。』言自然也。今陛下以大聖創業,豈惟處置見在子弟而已,當須制長久之法,使萬代遵行。」疏奏,太宗甚嘉之,賜物百段。
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三国志の中で「魏」とよばれる国では太子があまりに可愛いがために、進んで引き立てたり、守りたいがために、あたかも囚人のように幽閉させたりしたのだと言います。

極端な例かもしれませんが子供があまりにも可愛いく、立派にしたいがために英才教育をする、もしくは自分の意のままにさせる親もいますが、これでは子供を苦しめるだけです。

「子は親の背中を見て育つ」というが如く、自分自身の生き方、行動は子供にも伝わり、真似したがります。親が学べば、子供に教えずとも、自分で勉強したがります。子供を育てるためにはしつけも大事ですが、しつけ過ぎずある程度、親の背中を見せ育てられる様な環境を持つことで子供も自然に親のように育っていきます。

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貞觀十六年,太宗謂侍臣曰:「當今國家何事最急。各為我言之。」尚書右仆射高士廉曰:「養百姓最急。」黄門侍郎劉泊曰:「撫四夷急。」中書侍郎岑文本曰:「《傳》稱:『道之以德,齊之以禮。』由斯而言,禮義為急。」
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国家として急務な政策はないか、と言うことを臣下に問うた所です。
「農業政策」や「民族政策」、「教育政策」と様々なことが提示されたのですが、それ以上に万世のために自分自身が手本となり、それを太子たちに教えることが大切であることを説いています。

国ですから「問題」はつきものであり、急務なものも少なくありません。
しかし急務ではないが、国を栄え続けるために重要なことは疎かになりがちです。そのことの重要性を説いているのではないでしょうか。

<尊敬師傅第十>

尊敬する師、いわゆる「恩師」について説いた章です。

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貞觀三年,太子少師李綱,有脚疾,不堪踐履。太宗賜歩輿,令三衛学入東宮,詔皇太子引上殿,親拜之,大見崇重。綱為太子陳君臣父子之道,問寢視膳之方,理順辭直,聽者忘倦。太子嘗商略古來君臣名教,竭忠盡節之事。綱懍然曰:「託六尺之孤,寄百裏之命,古人以為難,綱以為易。」?吐論發言,皆辭色慷慨,有不可奪之誌,太子未嘗不聳然禮敬。
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太宗の息子である太子の師として李綱がつきました。太宗の父である太祖の時代から使えた李綱であるが、老齢のため、足を悪くしており、歩行が困難な状態でした。
その状態であるにも関わらず、絶えず太子につきっきりで君主とは、政治とは何であるかを教え、諌め続けたといいます。

太子にとって李綱は厳しく、反発することはあったものの、恩師というべき存在だったといいます。

<教戒太子諸王第十一>

太子への教えと戒めについて説いたところです。
「教育」としての方法というよりも根本である「あり方」を説いたところとも言えます。

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貞觀十八年,太宗謂侍臣曰:「古有胎教世子,朕則不暇。但近自建立太子,遇物必有誨諭,見其臨食將飯,謂曰:『汝知飯乎。』對曰:『不知。』曰:『凡稼穡艱難,皆出人力,不奪其時,常有此飯。』見其乘馬,又謂曰:『汝知馬乎。』對曰:『不知。』曰:『能代人勞苦者也,以時消息,不盡其力,則可以常有馬也。』見其乘舟,又謂曰:『汝知舟乎。』對曰:『不知。』曰:『舟所以比人君,水所以比黎庶,水能載舟,亦能覆舟。爾方為人主,可不畏懼。』見其休於曲木之下,又謂曰:『汝知此樹乎・』對曰:『不知。』曰:『此木雖曲,得繩則正,為人君雖無道,受諫則聖。此傅?所言,可以自鑒。』」
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太宗が息子の太子に向けて様々なことを問いましたが、太子は「知らない」と答えました。その「知らない」をもとに太宗は息子に教えるといったところです。

ソクラテスの「無知の知」というほど誉れ高いものではありませんが、自分自身が「知らない」ことを素直に伝えることは、学びを得るための第一歩といえるところです。

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貞觀十一年,太宗謂呉王恪曰:「父之愛子,人之常情,非待教訓而知也。子能忠孝則善矣。若不遵誨誘,忘棄禮法,必自致刑戮,父雖愛之,將如之何。昔漢武帝既崩,昭帝嗣立,燕王旦素驕縱,誇張不服,霍光遣一折簡誅之,則身死國除。夫為臣子不得不慎。」
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最初のように父が子供に教えること、そして愛することはごく自然なものです。しかしその子供を愛するが故に礼法を教え忘れ捨ててしまっては、国がほころび、滅びるきっかけとなってしまうと言われています。

子供を愛するのはよいが、その「愛」で「礼儀」を身につけさせることも忘れてはならないことを説いています。

<規諫太子第十二>

太子に対して規律を諫めることについて取り上げたところです。

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夫爲人上者,未有不求其善,但以性不勝情,耽惑成亂。耽惑既甚,忠言盡塞,所以臣下苟順,君道漸虧。古人有言:“勿以小惡而不去,小善而不爲。”故知禍福之來,皆起於漸。殿下地居儲貳,當須廣樹嘉猷。既有好畋之淫,何以主斯匕鬯。慎終如始,猶恐漸衰,始尚不慎,終將安保。承乾不納。
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人間は動物であるため「欲望」は少なからず存在します。その欲望に打ち勝つには小さなことでも「情欲」や「本能」を「理性」や「善」で治め続けることが大事です。

それを治め続けるのは一人ではできません。君主には諫言を行う臣下がいるように、諫め続けられる「師」の存在が君主になるべき太子のために大事なことと言われております。

(第五へ続く)

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<参考文献>

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<引用サイト(白文すべて)>

維基文庫、自由的圖書館より「貞観政要」