新宿で85年、本を売るということ

新宿駅東口から少し歩いたところに「紀伊国屋書店」の新宿本店がある。そこには本屋だけではなく「紀伊国屋ホール」といった演劇人の登竜門も存在する。

その紀伊国屋書店新宿本店は昨年、創業85周年を迎えた。その85年前、昭和が始まったときにある炭屋の息子によってはじめた。その炭屋の息子こそ「田辺茂一」である。本書は紀伊国屋書店新宿本店の歴史を本屋の歴史、紀伊国屋書店のチェーンそのものの歴史も含めて綴っている。

第1章「創業(1927~45年)」
田辺茂一は小さい頃から本が大好きだった。それが書店をはじめるきっかけとなったのが7歳の時に「ある書店」で洋書の陳列に魅せられたことから始まる。その「ある書店」は今の丸善書店である。
開店するやいなや個性的な書店で著名人をはじめ多くの人々に親しまれたが、やがて大東亜戦争に突入し、東京大空襲が起こった。

第2章「空襲から(1945・46年)」
その空襲、そして戦争により日本全体で困窮にあえいでいた。田辺氏も廃業をしようとも考えていたが、元店員で戦地に赴いた人の言葉により、再開しようと戦後間もないときから決心し、動き出した。

第3章「再始動(1947~63年)」
1947年に新しい紀伊国屋書店が建てられ、再始動した。その紀伊国屋書店がもっとも力を入れたもの、それは「洋書」の販売だった。
そしてその紀伊国屋書店が大きくなるきっかけ、いわゆる「育ての親」と呼ばれる松原治が入社してきた時代である。

第4章「新宿から各地へ、世界へ(1964~79年)」
その紀伊国屋書店は新宿から日本各地、さらには世界へ羽ばたこうとしていた。その第一歩が現在のビルになったこと、そして渋谷、大阪にと書店を開業するようになり、国内外へと広がっていった。

第5章「本店の誇り(1980年代)」
全国、そして世界へと店を構えるようになった紀伊国屋書店だが、新宿本店は特別なプライドが存在した。
創業者の田辺氏もまた終の住処としてこの新宿を選んだ。1981年に亡くなったのだが、自由闊達、豪放磊落、それでいて奔放である田辺氏らしい亡くなり方であったのだという。
創業者の死後も紀伊國屋書店は続き、豊富な書物を取りそろえ、「本選びの最後の砦」として大いに愛された。

第6章「変わる書店界のなかで(1990年代)」
バブル経済が崩壊し、経済が緩やかに後退し始めた頃、書店界もまた大きなうねりが起こった。その一つとして「ブックオフ」の誕生である。古本屋はそれ以前からずっとあったのだが、大型の古本屋であり、売り・買い双方が激しく流通する古本屋はこれまで無かった。
それが書店にとって打撃となったのだが、その時はまだ書店は元気だった。テクノロジーの臣下により、出版界も含め書店もまだ潤っていた時代と言えた。

第7章「ライバルたち(2000年代)」
1990年代をピークに本の売れ行きも右肩下がりとなっただけではなく、PC本やネット書店も出てきたことにより、書店界の状況は厳しくなる一方だった。さらに紀伊國屋書店新宿本店の近くにジュンク堂書店がオープンした(しかしそのジュンク堂は2012年に撤退し、後にビックロがオープンした)。しかし紀伊國屋書店新宿本店は様々な変化・進化を起こしながら今日も愛され続けている。そして2012年3月、85周年を機にリニューアルオープンした。

私も数回であるが紀伊國屋書店新宿本店に訪れたことがある。豊富な書籍のヴァリエーションと独特の雰囲気は今でも忘れられない。本好きの私に取っても良い意味で「たまらない空間」がここにあると言える。
炭屋な青年が建てた書店は85年経った今でも、本好きの人々に愛される場所―
それが紀伊國屋書店新宿本店の姿であり、今も、そしてこれからも生き続ける。

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