科学者の卵たちに贈る言葉――江上不二夫が伝えたかったこと

現在、日本に海外にと活躍する研究者は少なくない。学問にしても別に科学者に限ったことでは無く、様々な分野で日本人は活躍している。現にノーベル賞を受賞した方々もおり、世界的な競争の中でトライ&エラーを繰り返しながら切磋琢磨を続けている。

著者は1962年からおよそ50年にわたって科学技術の研究を続けた傍ら、多くの科学者を輩出してきた。自らの経験を活かして、これから科学者となる方々のための贈る言葉として本書に残している。

1.「他人と戦わない」
研究分野のみならず、ビジネスでも戦うことはある。しかし「スポーツ競技」と違ってあれこれ理由をつけて戦う、のは単純に「勝った」「負けた」という一瞬の結果にこだわってしまう。研究者は競争ではなく、あくまで目の前にある積み木をじっくりと積み上げる。もしくは宝探しをする、といったように芯をもってトライ&エラーを重ねていくことが肝心である。

2.「人真似でかまわない」
「学ぶ」ことは他人の技術や知識を「真似る」ことから始まる。研究者であれば他人の研究を真似ていくと、必ずどこかで他人と違う気付きを得ることができる。いきなり「独創的な」研究、もしくは「流行の」研究を追い求めても結局なしのつぶてになってしまうことが多い。
数年・十数年・数十年と、止めどない時間をかけて牛歩・鋼鉄といったテンポで研究を進めていくことによって、大きな成果となる。

3.「伝統を大切にする」
ここでいう「伝統」というのは、大学などにおける「研究室」の伝統についてである。「研究室」の伝統とはいったいどのようなものがあるのだろうか。
一例を挙げると、研究テーマもあれば、研究スタイルもあり、研究のスピードもある。それぞれの伝統は全て踏襲するのも進化を止める原因になるのだが、大方の伝統を受け継ぎながら牛歩でも良いので「進化」「変化」を続けることが研究をすすめる、研究室が栄えるための大切なことである。

4.「つまらない研究なんてない」
「研究」と一重に言っても、学問のジャンルも広く、一つの学問でも研究テーマを分岐すると数え切れないほどある。中には単純な研究を長く続け、数十年後にようやく成果として表れる。
一見つまらないような研究もあるのだが、研究を続けていくにつれて研究している分野の面白さに気付くことができる。

5.「三ヶ月で世界の最先端になる」
研究をする以上、特定の分野に対して専門家になる事は避けられない。むしろ専門家になるために派本章のタイトルにある、「三ヶ月」で最先端に行くことが大事である。ではなぜ「三ヶ月」なのか、というと、あくまで著者の目安であるのだが、三ヶ月は学術研究・修士研究を行うまでに必要な知識を得るために三ヶ月を要しているのだという。

6.「実験が失敗したら喜ぶ」
科学実験には「失敗」がつきものである。様々な理論を掛け合わせ、理論の集合体として「仮説」ができる。その「仮説」を元に「実験」を行い、失敗を繰り返しながら研究を続け、「仮説」を修正し、新しい切り口や考え方を絵ながら「成果」を生み出す。「トライ&エラー」は決して悪いことでは無く、その中で得た「失敗」はマイナスよりもむしろ「プラス」に作用するため喜ぶべきと著者は語る。

7.「先生は偉くない」
研究室における「先生」は、何でも知っているわけではない。単純に「学問上の先輩」であるだけで、先生から得られるアドバイスを鵜呑みにしてはいけない。ただ、だからといって軽蔑するのはお門違いであり、先輩である以上一定の敬いは必要である。

本書はあくまで「科学者の卵」のために長年研究に勤しんだ経験からのアドバイスを提示しているだけであるが、本書はべつに科学者に限ったモノではなく、ビジネスの世界でも「トライ&エラー」を重ねている人も少なくないため、ビジネスの世界にも流用できるのではないか、とさえ思った。