日本の国技の一つである柔道は、学校の体育の授業でも扱われることがある。武器を使わず、手や足腰を使って相手を倒すという武道の一つとして挙げられる。
しかし、柔道はケガと隣り合わせであり、重傷を負ったり、最悪の場合命を落としたりするような重大事故になることさえある。
2012年4月に中学校で武道が必修化したことにより、柔道の授業が多くなった中、本書ではこれまで起こった柔道事故の実態を明らかにし、これから必修化に向けた柔道をどのような形にしていくべきかを提言した一冊である
第1章「柔道事故の実態と特徴」
本書で取り扱っている統計は1983年~2011年に集計したものを使用している。この29年もの間に死亡事故だけでも118件にも上っている(本書の巻末資料に全ケースが掲載されている)。他のスポーツの死亡事故に関する統計も本章で紹介しているが、中でも柔道は死亡率が高く、対策が急務であることを訴えている。死亡はしなくても、頭部の負傷により、重軽傷を追ってしまうケースも多いことを重ねて訴えている。
第2章「事故はなぜ起きるのか」
なぜ事故が起こるのか、その原因にはいくつかある。それは柔道がリスクの大きいスポーツであること、さらに死と隣り合わせになる可能性があると言うことを伝え切れていない部分があるという。
「柔道はまず受け身から」という言葉があるのだが、受け身だけでは柔道の事故を防ぐわけではない。スポーツをやるに当たり、危険なことを伝え続けることが柔道を教えるもの、受けるものの義務であることを伝えている。
しかし、武道必修化となって、それを伝えられる人が少なくなり、部活動と授業との接点を見えなくさせたと著者は分析している。
第3章「声をあげた被害者たち」
柔道事故の被害者が集まった「被害者の会」がある。その名も「全国柔道事故被害者の会」と呼ばれる団体である。著者はその団体のメンバーのヒアリングを行い、実際に起こった柔道事故の事例を取り上げつつ、柔道事故にはどのような動機があったのか、さらに、被害者の会そのものの目的なのか、と言うことを分析している。
しかし、本章でちょっと疑問点があった。
「海外のケースからは、柔道は必ずしも危険な競技ではないことがわかっている。ただ、少なくとも日本の柔道は、いまのところ危険な競技である。」(p.161より)
海外のケースはいったいどのようなものがあるのか、あるいはどのような統計から「危険な競技ではない」のだろうか、そしてその統計からなぜそのような結論に至ったのか、いささか疑問に思った。
第4章「柔道界・政界からの提言」
これまで調査してきた柔道事故をふまえて、全日本柔道連盟(全柔連)と国会で勉強会を送ったり、質問状を送ったりして、提言できるような活動をしている。
全柔連というと、昨年の秋頃から体罰による、告発が起こっており、全柔連そのものが変わりつつあるのだが、そもそも全柔連そのものが「男のムラ社会」と言うことを指摘している。さらに政府でも野田内閣の中で勉強会を開いたりしてきたが、政権が自民党に戻ったときの記録が示されておらず、本当に事故防止のために進んでいるのか、わからないと言う他ない。
最後にこれだけは言いたい。これは柔道界・政界だけではなく、著者や当ブログを読まれている方もそうである。本書はあくまで柔道における死亡・負傷事故を通じて、安全な柔道を行うことを訴えている。決して「柔道をやめろ」「柔道をなくせ」とは決して言っていない。
本書を取り上げた理由は、自分自身も中学生の頃、柔道ごっこで頭部にケガを追った経験を持つ。幸い脳震とうまでは至らなかったものの、頭部を強打したのと同時にめまいや吐き気を催したことがあり、CTスキャンをするほどの検査をしなくならなければならなかった経験を持つ。柔道は武道であると同時に、死と隣り合わせのスポーツであることを政府に、そして学校に警鐘を鳴らした一冊である。
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