エネルギー問題は2004年あたりから日本のメディアで扱われてきた問題で在るが、原発事故を機に、その声がより高まりだした。海外に目を向けてみると、アメリカでは2017年までには世界一の原油差案出国になる見通しを立っており、さらに「シェール(頁岩:けつがん。堆積岩の一種で)」と呼ばれるオイルやガスの開発を進めており、自国だけで需要をまかなえるようにするのだという。
エネルギーの自給を進めているために、日本でも動いているものがある。例えば青山繁晴氏が代表を務める独立総合研究所では日本近海で見つかっているメタンハイドレードの実用化に向けて動き出すなどエネルギーの自給に向けた開発や発掘にも力を入れている。
話がそれてしまったのだが、エネルギーというとロシアも天然ガスの開発が顕著であり、外交関係でも日露首脳会談が今年の4月と9月行われた(4月は単独、9月はG20首脳会議内で)。さらに11月にもこの中では北方領土問題に向けた話し合いの他に、ロシアに対する技術提供を行われる話し合いが行われていたのだが、具体的にエネルギーにおける同名を結ぶべきと著者は主張している。本書はその主張の根拠と日本の立ち位置はどのようについて提言を行っている。
第一章「シェールガス革命に乗り遅れる日本」
アメリカを中心に「シェールガス革命」が起こっている。「シェールガス革命」とは簡単に言うと、「北米地域で天然ガスが豊富に産出出来る事による、ガスの生産急増により、エネルギーの需給構造が多く変化する現象」のことを言う。一方日本はエネルギー戦略に関して大幅な遅れを取っていると言いざるを得ない。というのは福島第一原発事故に関して、原発はほぼ全て停止し、まかなっているものを火力発電などである。その火力発電をするにあたり、高価なLNG(液化天然ガス)の依存を余儀なくされている状態にある。このLNGの多くはカタールをはじめとした中東諸国から輸入しており、世界の全産出量のうち32%を輸入しているのだという。一方で生産の多様化に向けてシベリアなどの極東地域からのLNGパイプラインを引く構想があったのだが、立ち消えになってしまった。原因は不明であるが、民主党政権によるものがあるのかもしれない。
第二章「シェールガス革命と「中国の膨張」に悩むロシア」
ロシアは第一次プーチン政権のときにLNGを発掘し、大量生産をする準備ができたのだが、シェールガス革命の煽りを受け、需要が伸び悩むようになった。さらに中国の経済台頭により、大国としてのロシアも気が気でなくなった。もっと言うとシェールガス革命の煽りは欧州にも及び、輸出国として最大の相手国である欧州を失う可能性も見えている。また、極東開発そのものも欧州の逆風により、開発資金が枯渇し、なかなか進んでいない現状もある。
第三章「エネルギー・モンロー主義に舵を切る米国」
「モンロー主義」は「欧米両大陸の相互不干渉を主張する、アメリカ合衆国の外交政策の原則(「広辞苑 第六版」より)」の事を言い、アメリカ第5代大統領ジェームス・モンローから取っている。ちなみに本章で言う「エネルギー・モンロー主義」は「米国の脱中東政策」として解釈されている。2000年代後半は中東諸国における原油の苛烈な競争により、原油が高騰したことは記憶に新しいのだが、シェールガス・シェールオイルを自国で開発することが出来る事から輸入する理由がなくなった。先のイラク戦争のように「石油」を目的とした戦争を起こす必要が無い。もっというと自国だけで生産をまかなえるため、アジアに目を向ける必要すらなくなっている。その証拠になったのは2012年の米国大統領選で、アジア政策についてほとんど取り上げなかった。そのことについてアメリカの「ウォールストリートジャーナル」を中心としたメディアがこぞって取り上げた。
第四章「日本はアジアのオフショア・バランサーを目指せ」
現在日中・日韓関係が悪化していることは周知の通りであるが、米中関係も悪化の一途を辿っている。原因は「サイバー戦争」によるものであり、ほぼ「冷戦状態」にあるのだという。冷戦状態にある中日本では中国対して嫌悪感を覚えているASEAN諸国との関係を深める「中国包囲網」をつくっているのだが、それとともにロシアとの関係を深めて包囲網の「オフショア・バランス」を保てる立場になる必要があると主張している。
第五章「日本はサハリンからのパイプラインに活路を見出せ」
ロシア・サハリンからのパイプライン構想は第一章で立ち消えになった、と言ったが2012年の11月に再び動き始めた。そのことから中東諸国から高価なLNGに依存から脱することができ、生産をもてあまそうとしているロシアにとっても格好の輸出相手国となる。本章では天然ガスインフラの整備状況をもとにパイプラインをどのようにして敷けば良いのかを示している。
第六章「日露エネルギー同盟で東アジア地域の安定を築く」
ロシアから日本にかけて引くパイプラインは天然ガスだけでは無く、石油も含まれる。ロシア産の原油は中東諸国とは異なり、転売に関する制約は存在しない(中東には「仕向地条項」によって制限されている)。そのためには日露関係を構築し、同盟を汲むことで、官民双方で連携を組むこと、そしてそれによって北方領土返還に向けた動きに弾みをつけると言うような形にすることについて提言をしている。
日本とロシアは近しい国だが、韓国・中国のように嫌悪は関係ではないものの、接点は多くなかった。それはロシアと親密な関係を持っている国会議員がほとんどいないという現状がある(いても森喜朗くらい、ちなみに鈴木宗男も関係はあるが公民権停止中である)。また、戦後処理についても1993年10月にエリツィン大統領(当時)訪日にて正式に謝罪を表明し、精算は完了している。戦後処理のリスクがなく、中国のリスクがあるとするならば、アジア包囲網をつくる、その上でロシアは最も重要な関係構築になるのではないかと思う。本書はその上での日露間のエネルギー戦略の在り方を提言している。
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