本書は2012年に文芸雑誌「群像」の7月号に収録されたものと単行本化された一冊である。本書が上梓される前の作品「爪と目」では第140回芥川賞を受賞した。本書は受賞後の1作目として世に織り出された一冊である。
ホップな作品からダークな作品に至るまで幅広く揃えてある10編の短編集だが、印象に残っている物として本書のタイトルにある「おはなしして子ちゃん」、小学生の主人公がふと立ち寄った理科準備室、だが閉じ込められ、準備室で偶然ホルマリン漬けの生物と出会う。その生物と小学生との「おはなし」。ホルマリン漬けの表現についてグロテスクな印象はあったけれど、会話は非常に幼くもあり、切なくもあり、と言った印象であった。
そしてもう一つ印象深かったのが「エイプリル・フール」。4月1日のことを連想してしまうのだが、実は物語の主人公の名前が「エイプリル・フール」であるという面白い作品である。しかも、
「エイプリルは今後、一日に一回嘘をつかなければなりません」(p.126より)
とあるから、まさに「エイプリル・フール」の日を物語として投影している様に見えてならない。
コメント