「巣鴨プリズン」というと、東条英機をはじめとしたA級戦犯7人が絞首刑となった場所としても知られており、東京裁判にかけられた被告達が修養された場所としても知られている。その収容された人の中にはC級戦犯として服役していたある人物が500枚ものスケッチにしてしたためている。獄中生活を「日記」「手記」と言う形で、文章にして記録していたものは重光葵、笹川良一をはじめ何人かが書籍にして表されていたのだが、スケッチは初めてである。しかも服役した本人が「ありのまま」描いているため、史料としても有力とも言える。本書はそのスケッチをもとに、戦犯とは何か、そして巣鴨プリズンはいったいどのようなものかを立体的に紐解いている。
第一章「C級戦犯として巣鴨プリズンへ」
よく報道では「A級戦犯」と「BC級戦犯」と一緒くたになってしまうので、ここで戦犯についておさらいしておきたい。
・A級戦犯・・・平和に対する罪
・B級戦犯・・・通例の戦争犯罪
・C級戦犯・・・人道に対する罪
と言う形で分かれている。B級戦犯自体は過去に作られた条約(ハーグ陸戦条約など)に違反した場合に適用されるものだが、A・C級戦犯は「事後法」と言われている。
さて、本章の話に入るが、著者がC級戦犯に投獄されたのは「捕虜虐待」と呼ばれるものであった。巣鴨プリズンに入所から身体検査、独房、入浴字の姿を映している。ちなみにスケッチは鉛筆などで作られた簡単なスケッチなのだが、どのような映像なのかは容易に想像できるように作られている。なお本章で印象に残ったのは「DDTルーム」と呼ばれるものがあったこと。ちなみにDDTはプロレスの技として有名だが、本来の意味である殺虫剤を表しており、部屋の中で殺虫剤をかけて、戦犯達の虫除けや殺虫をしていたと言われているが、スケッチからして「拷問」という言葉も使うことができる。
第二章「それは戦犯告知から始まった」
巣鴨プリズンに収容されてから初めての尋問、食事風景、独房の中での雑談・遊びのスケッチが収録されている。検察による尋問はまさに言葉の暴力(侮蔑・恫喝・誘導)といたものを駆使した激しいものであったのだという。
そしてスケッチではないものの、鈴木貞一、東条英機、嶋田繁太郎にまつわるエピソードが綴られている。特に東条英機とは著者が清掃係・入浴係を担当していたため、直に会話をするなど触れられていたためか、巣鴨プリズン内での東条英機の側面が映し出されている。
第三章「まさか戦犯と呼ばれるとは」
ここでは著者自身の生い立ちを綴っている、大工の息子として生まれた著者は父の仕事を受け継ぐために修行をするようになったのだが、まもなく日中戦争の激化を受けて、軍に徴集されるようになり、陸軍に入隊した。その後中国大陸の戦線で戦い、捕虜収容所勤務も行った。著者がC級戦犯に問われたのはその「捕虜収容所」での出来事だった。
第四章「巣鴨プリズンのイラストレーター誕生」
しかし、著者はなぜ巣鴨プリズンのイラストを描こうと思ったのだろうか。それは巣鴨プリズンに入ったばかりの時、陸軍元帥ともなった梨本宮守正王よりスケッチの依頼を受けたことから始まった。それからというもの、獄中の中のことについて多くのイラストを描いてきた。一つ一つが巣鴨プリズン内の日記のように、一枚のイラストにしたため続けた。
第五章「獄中生活をイラストに支えられて」
しかし丸1日絵を描いていたわけではない。巣鴨プリズンに服役されたBC級戦犯は土木作業など様々な重労働を強いられていたという。その重労働の前後で、著者はスケッチを行っていたという。そのスケッチの技術がかわれ、アートショップも設立するようになったという。仮釈放後、工務所を経営に勤しんだという。
おそらく東京裁判、及び巣鴨プリズンに関する史料は色々あるが、本書は「一次史料」と呼べるほど、の価値がある。それは「イラスト」と言う形で「巣鴨プリズン」を綴っているものは他には全くと言っても良いほど存在しないためである。写真であれば、いくらか存在するものの、写真ではほとんど目に行き届かないような描写まで描かれており、これからの巣鴨プリズンについての研究材料としての価値は大きい、研究者じゃなくても、巣鴨プリズンについて知りたい、と言う方であれば、これ以上の一冊はないと言える。
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