海辺の恋と日本人~ひと夏の物語と近代

海というと、夏の海水浴を連想する人も多い、中には各種サーフィンなどマリンスポーツを連想する人もいることだろう。取り分けマリンスポーツの中には冬でも行っているものもあり、私の住んでいる近くの由比ヶ浜に行くと、砂浜を歩く人、あるいはサーフィンをする人もよく見かける。

日本人と「海」は多くの歴史があり、それにまつわる物語も多い。本書は海と日本人の物語作品の変遷を追っている。

第1章「物語の発生―夏の海辺と出会い」
海にまつわる物語は明治時代から始まった。ちょうど同じ時期に公営の海水浴場ができた(諸説あり)。特に海水浴場で有名なところとしては「大磯ロングビーチ」「サザンビーチちがさき」などが挙げられる。海に関する物語の始まりは夏目漱石の紀行文である「木屑録」や正岡子規の「叙事文」が挙げられる。

第2章「明治後期の海辺の物語―口絵と演劇に見るイメージ」
明治時代の後期には尾崎紅葉の「金色夜叉」などで海岸を描く作品が出てきている。本章のサブタイトルにもあるのだが、明治後期作品で取り上げる作品の多くは「口絵」と呼ばれるような作品も数多くあった。

第3章「男たちの海辺―文学作品から感性を読む」
本章では明治末期の文学作品にてどのような形で、海岸をモチーフにしていたかを取り上げている。本章では初めて「海辺の恋」について言及しており、夏目漱石の「こころ」や「彼岸過迄」「行人」などが取り上げられている。

第4章「映画・スポーツと<肉体>―大正期のまなざし」
時代は明治時代から大正時代をかけてであるが、ここでは小説を離れ、映画の世界に入る。日本映画の歴史は1896年にエジソンのキネトスコープを使われたことから始まり、その後いくつかの短編映画が作られた。海にまつわる作品も作られ始めたのはちょうどその当たりのことである。

第5章「不良から太陽族へ―海辺と<アメリカ>」
時代は昭和から戦後まで行く。その時代には「不良」と言う言葉が生まれている。その時は夏休み中に窃盗をしたり、女性を誘惑したりすると言ったことを行っている。現在で言うところの「ナンパ」と言う言葉は「軟派」な不良が女性を誘惑した事が起源とされている。その不良についての事件も鎌倉や湘南海岸で起こったものが扱われており、戦争を経て、戦後には外国人用の海水浴場が取り上げられることもあった。そして昭和30年、現在の衆議院議員である石原慎太郎が「太陽の季節」という作品が芥川賞を受賞し、一躍ブームとなり「太陽族」も誕生した。

第6章「カリフォルニアと南の島―イメージとしての1980年代」
時代は昭和後期に入り雑誌「POPEYE」が創刊された。昭和51年の話である。その「POPEYE」という雑誌ではカリフォルニアの若者たちのファッションが取り上げられ、ライフスタイルからレジャーにいたるまで若者の文化に浸透していった。サーフィンも毎年取り上げられるようになり、「POPEYE」に影響されてサーフィンを始めた人も少なくない。

自分自身、北海道の内陸出身のためか、海に対して強い憧れを持っていた。現在は鎌倉に住んでおり、海からは歩いて10分程度にあるのだが、時間の空いたとき、仕事が行き詰まったときは由比ヶ浜などの海岸を歩くことが多い。
日本人と海、その二つの関係は文学作品、映画、さらには雑誌などを通じて深いのだが、歴史の長さは明治以後の文学作品と共に彩られている。