おもてなし学入門

去年2012年は数多くの流行語が生まれた。中でも東京オリンピック招致のプレゼンで、フリーアナウンサーの滝川クリステル氏が発した「お・も・て・な・し」がある。日本のホスピタリティの代表格として「おもてなし」があるのだが、それはいったいどのようなものなのだろうか。そしていかにして成り立ったのか、本書は「おもてなし学」と言われるユニークな学問からその入り口を表している。

第一章「もてなしの伝統と和宴の広がり」
「おもてなし」と言う言葉はいったいどこから来ているのだろうか。「もてなし」を調べてみると、

「1.とりなす、とりつくろう、たしなむ
 2.取り扱う、あしらう
 3.とりもつ、ふるまう、馳走する
 4.世話をする」(p.10より)

とある。これに対して動詞形の「もてなす」は、

「1.とりなし、たしなみ
 2.ふるまい、挙動
 3.取扱、あしらい
 4.馳走、饗応」(p.11より)

とある。これらの意味について、意味をさらに紐解き、さらに歴史や民俗を引き合いに出して解説している。

第二章「和宴と日本料理」
今度は「おもてなし」の根源の一つとして「日本料理」そのものの歴史をひもといてみる。日本料理、つまり「和食」は昨年「無形文化遺産」と呼ばれるものに登録され、世界中からさらなる注目が集まるだろう。ここでは「もてなし」を料理や振る舞いなどにまとめた「和宴」という言葉を用いて、日本料理の成り立ちについて、古代からの食事上の変遷をもとに解き明かしている。米から汁物、さらには肉を食べない理由から、包丁の歴史、さらには器の成り立ちなど、日本料理の思想の変遷も絡めて述べられており、日本人としての「食」のルーツも含めて知ることができる。

第三章「もてなしの文化と背景」
元々「もてなし」は他人に対して、食や接客を通じてよい雰囲気になるように施すことから始まる。それは中国大陸から伝えられた「禅宗」から伝わった。日本には古くからあったのだが、本性では「空間」としてのもてなしはどのように変化していったのかを平安時代から、「食」以外にも音楽や舞踊などの「もてなし」の歴史、そして「茶道」「華道」「舞踊」などの芸道の歴史も絡めて取り上げている。ここでは「食」からいったん離れて、違った形で人をもてなす方法があり、「もてなし」の奥深さを知ることができる。

第四章「料亭・料理店の誕生とその世界」
現在のように、料亭や料理店はたくさんあるのだが、これはいったいどのような歴史を紡いできたのだろうか、文献に出てきたのは江戸時代の初期に「茶屋」として出てきたのが最初とされる。「茶屋」というと、お茶とお茶うけのお菓子が振る舞われ、雰囲気と菓子の甘さ、そして茶の旨さをたしなむ場であるというイメージがあるのだが、当時の茶屋では「茶飯」や「味噌汁」などの食事も振る舞われていた。それがやがて遊郭や間食などに発展し、「料理茶屋」が生まれ、そして料亭でよく出てくる「会席料理」が誕生した。

第五章「料亭・料理店の変遷と現在」
料亭や料理店は江戸時代の初期からできた、というのはわかったのだが、その後どのような変化をしてきたのだろうか。本章ではそのキーワードとして「花街」を取り上げながらどのような歴史をたどっていったのか考察を行っている。

日本における「おもてなし」の文化は独特である。独特であるが故に、世界中でも人気を集めており、オリンピック招致の時にそれを発信したのだろうと思う。しかし戦後になって日本の食文化は大きく変化をしてきた。中には変わってはいけない伝統まで変わってしまうなど、変化はしているものの、相容れられない変化まで起こってしまっている。日本における食文化、そして「おもてなし」とはいったい何なのか、本書を通じて見直してみてはいかがだろうか。