面白い本

書評家の性というのか、私は「おもしろい本」には目がない。100万部超えたベストセラーよりもむしろ、内容やタイトルなど面白おかしさをもっていて、それでいながら読めば読むほど楽しくなるような本が良いとつくづく思う。本書の著者である成毛氏は読書家としても、超をいくつつけても足りないほど大物であり、かつ数多くの種類の本を読破している事から、本のことを隅から隅まで知り尽くしていると言っても過言ではない。もし成毛氏が本について100知っているのであれば、私だったら0.1もない位である。

その著者が選りすぐりの「面白い」と思った本を取り上げている。

1.「ピンポイント歴史学」
著者の「本読み」は、

「ただただ、ページをめくるのが楽しい。これが読書の喜びであり、その喜びに耽溺(たんでき)してしまうのが本読みというものだと私は思う。」(p.iより)

という。私も同感であり、書評のために、もしくは自分の愉しみのために、本を読むことであらゆる角度の快楽を覚えてしまう。
さてここから本の内容に入っていくのだが、「ピンポイント」と言っても「時代」と言うわけではなく、「サル」や「ある年」など、時代における「ピンポイント」ではなく、対象の人物、年、さらには動物など本当の意味で狭い範囲の歴史を取り上げていることから「ピンポイント」と言っている。

2.「学べない生き方」
本は勉強になると言われているが、中には余りにぶっ飛びすぎて勉強にもならないようなものもある。そもそも本は勉強道具と捉える人もいれば、「嗜好品」として捉える人もいる。本書にあるように「学べない」といいながらも、本読みとして思いっきり楽しめる本は数多くある。

3.「ヘビーなサイエンス」
「ヘビー」の定義は色々ある。一つはページ数の多いという「ヘビー」、もう一つにはグロテスクな内容がはらんでいる意味合いでの「ヘビー」、さらにはかなり専門的なもので、初心者ではとても読めない難しさでの「ヘビー」が挙げられる。
本章における「ヘビー」はいったいどのようなものか、と言うと、最後に当たるのかもしれない。しかし難しいとはいっても、読ませられる内容になると、ある種の「わかった気になる」感覚に陥ることもあれば、ちょっと調べてみると2度3度おいしくなる本とも言える。

4.「シチュエーション別読書法」
「本はモノである。置かれる場所、読まれる場所によって価値が変わり、選択基準も変わる」(p.76より)
私も同じような考えである。シチュエーションによって、読書をする方法も変わり、かつ、読む内容も変わってくる。普段読まない本でも、場所を変えて読んでみると、読める角度も変わってくる。
本章ではトイレで読んだ方がいいもの、余りに面白くて、もしくはエロすぎて電車の中では読んでいけない本などが取り上げられている。

5.「嘘のノンフィクション」
ノンフィクション作品は実際に起こったことを元に作られた作品であるのだが、「嘘」も付き物であるという。それは「真実であるかもしれない」という半ばグレーの内容を持ってしまうことにある。本章ではノンフィクション作品が取り上げられているが、「これって本当にあったこと?」と疑うようなものもある。

6.「タイヘンな本たち」
「タイヘン」という定義もなかなか難しいのだが、本章では取り上げられる人物の思考や思想が「タイヘン」と言うものもあれば、「タイヘン」な人生を送っている人、さらには「タイヘン」な潜入ルポ作品まである。「タイヘン」と言っても様々な種類がある。

7.「金と仕事のものづくり」
「仕事」の種類にしても、お金儲けの仕方にしても、法に触れないような物はたくさんある。中には複数の種類を並行して行い、収入を得ている人もいる。仕事の中には、重要な仕事なんだけど、本に出会わない限りまず知ることのできなかったもの、さらには仕事とお金に関連して、知り得なかった経済システムまである。

8.「事実は小説よりも奇なり」
これはことわざにある言葉であるが、

「現実の世界で起こることは、人が考えて作る小説より不思議で複雑だったりすること。」「ことわざ.biz」より)

という意味である。フィクションだが、「本当に起こってしまうのだろうか?」と不安になってしまうほどリアリティな小説まである。本章ではそのような小説を取り上げている。

9.「鉄板すぎて紹介するのも恥ずかしい本」
「鉄板」は簡単に言えば、スタンダードな本、あるいはベストセラーと呼ばれる本のことを指す。余りに知られていて、評価も数多くされていることから、こちらから説明や紹介をする必要のない作品を取り上げているが、そういった物の中から著者が厳選して「面白い」と思っているのだから、知名度とおもしろさの両方を兼ね備えていると言っても過言ではない。

私も「面白い本」を取り上げるが、よくよく読んでみると、本当に面白い本もあれば、ある種の「二番煎じ」と読ばれる本、もしくは自分自身の自己満足(マスターベーション)と言いかねないような本まである。本当の意味で面白い本に出会い、取り上げるのは約2千冊取り上げた物の中では、ごく一部しかない。とはいえ、面白い本は「知る人ぞ知る」と言える一冊の中に出てきていて、それを掘り起こす愉しさもまた、読書家の醍醐味と言える。