男性学の新展開

当ブログでは今まで何回か「フェミニズム」や「女性学」について論じてきたのだが、今回は「女性学」と相対する「男性学」について取り上げて行こうと思う。そもそも「男性学」と呼ばれる学問が展開されたのは1980年代後半から、それ以前にフェミニズム論議が隆盛を極めたことによる対抗として成り立った。「男性学」という学問が生まれてから何冊か本も出ており、「ウーマン・リブ」ならぬ「メンズ・リブ運動」も起こったのだという。
本書は「男性学」という観点から日本における男性の存在は、男性性はどのように変化していったのだろうかそのことについて追っている。

第1章「「男性問題」とは何か」
「女性問題」であれが、女性が被っている社会における「矛盾」と言うことを説明できるが、「男性問題」は聞き慣れない。「女性問題」と対照的な表現なのかと言うことを、本章を見るまでは考えていたのだが、そうではなく、「男性性のあり方」として「男性問題」がある。「男性性」とは簡単に言うと「男らしさ」であり、最近ではネガティブな意味で「草食系男子」や「非婚・晩婚化」と言った事が叫ばれているため、男性のあり方が問われている。そう考えていくと、男性学の歴史は短いものの、今問われるべきものとして挙げられていてもおかしくない。

第2章「複数形としての男性性」
本章はちょっと難しい。というのは社会的な考察と言うよりも、哲学的な考察が含まれているためである。本章では「複数形」と「男性性」の兼ね合いについて考察を行っている。

第3章「現代日本社会の男性と労働」
現在、日本における労働環境は女性の立場からで言うと、改善しているのだが、まだまだ余地がある状況である。一方男性はいうと中高年を中心に解雇の対象にされるケースも少なくない。家庭でも「男性は仕事、女性は家事」という固定観念が崩れ、夫婦共働き、さらには「主夫」と言って夫が家事専門に従事すると言った事もある。他にも若者の労働問題についても本章にて言及している。

第4章「地域に男性の居場所を作る」
かつて「2007年問題」というものがあった。これは何なのかと言うと「団塊の世代」が一斉に定年退職をする時期がちょうど2007年になることから名付けられた。実際には退職年齢の引き上げや高齢者の労働の確保といったところで若干は改善しつつあるのだが、それでも大企業のリストラ対象として40代・50代が先に切られると言うことも珍しくない。会社の居場所がなくなり、家にいることが多くなったとき、男性はどのような立場に置かれるかと言うと、趣味のある人にとってはサークルに行ったり、生涯学習講座に行ったりすることも上げられるのだが、定年を機に離婚してしまい「独居老人」と言う言葉があるとおり、話せる人が誰もおらず、寂しい人生を送る方も少なくない。その際、本章のタイトルにあるとおり、「地域に居場所があるのか」という問題について取り上げている。

第5章「オタクの従属化と異性愛主義」
「オタク」と言う言葉が初めて使われたのはコラムニストの中森明夫氏が「漫画ブリッコ」の中で「「おたく」の研究」というコラムが連載されたことから使われ始めた。男性学について考察を行うときに「オタク」との兼ね合いも考察の対象になるのだという。

第6章「揺らぐ男性性と恋愛/結婚の行方」
最初に「非婚・晩婚化」や「草食系男子」と言った事を取り上げてきたのだが、それにより「男性性と恋愛・結婚」はどこに行くのだろうかという課題が生まれた。本章ではこれから男性における結婚や恋愛はどうなるのか、「男性学」の観点から考察を行っている。

「男性学」は女性学とは異なり、最近できたものであり、まだ認知はされている状況にはない。しかし最近では「草食系男子」をはじめとした男性に対する差別用語が出てきていることから男性とは何か、どのような姿なのか、と言うことを考察する学問が必要になってきていることは間違いない。そう考えると「男性学」はマイナーであるものの、メジャーになる可能性は秘めている。本書はその可能性が見えた一冊である。