高く手を振る日

自らも老いて、妻に先立たれて、人生そのものの行き止まりに瀕していた男性が、大学時代の思い出の写真を見つける事から物語は始まる。大学時代と言ってももう50年ほど前の事であり、印象の強い子と意外は忘れ去られてもおかしくないのだが、その主人公は今もなお大学時代の淡い恋物語の記憶を残していた。その思い出を約50年の歳月をかけて精算するとき、その男性はどのような心境の変化があったのか、「老い」と「恋」の両側面から見た物語である。

実際にはその大学の時の恋人と再会するのだが、実際にあって話をしただけである。そしてタイトルであるが、その別れの時に手を振る仕草をしたかったのだが、もうすでに70歳の老体であり、四十肩か五十肩かわからないものの、手を高く上げることすらできなかった。そのためタイトルの通り「高く手を振りたかった」という後悔の念が出ている様に思えてならない。

ある種の恋愛小説に見えるし、あるいは、思い出探しの群像を描いた小説にも見える。中編小説だが、読んでいけば行くほど、様々な側面が見ることができ、何とも言えぬ面白さがある一冊である。