おなかの赤ちゃんは光を感じるか――生物時計とメラノプシン

「お腹の赤ちゃんはどのような世界を見ているのだろうか?」
その疑問について私自身も分からなかった。最も胎児の時は目も耳も発達していないため、どういったものが見られるのか全く分からなかったためである。しかし、胎児の視点からどのように光を感じるのか、その研究が進められていたことには驚いた。そしてその感じる光によって赤ちゃんは成長しているということもまた新たな発見であった。本書はその「赤ちゃんは光を感じる」ことのメカニズムを紐解いている。

1.「お腹の赤ちゃんを見たい」
現在お腹の赤ちゃんを見ることは可能であるのだが、具体的にどのような胎児の状態を測るための超音波により「胎児エコー」と呼ばれるものがある。最近では「3Dエコー」と呼ばれるものがあり、それによって、より立体的に胎児の成長具合を判別することができるようになった。しかしエコーでもわからないことがある。それは「胎児の各臓器、及び脳のはたらき」がある。強いて言えば脈拍といったところまではわかるものの、それ以外のことは分からないというのである。
しかしそれが分かるようになったのだが、そのきっかけは「早産児」だった。

2.「赤ちゃんの成長と睡眠の関係」
もっともこの「早産児」の治療でもって、赤ちゃんの成長や睡眠はもちろんのこと、知覚や五感などが明らかになり始めた。明らかになったものの一つとして「音」を学習すること、そしてそれが「睡眠」と関係していることにある。

3.「母と子をつなぐ生物時計」
最初に胎児は目や耳が発達しておらず、視界がほとんどない状態だと言った。しかし本書のタイトルにあるように「光を感じる」と書かれている。「見ている」のではなく「感じる」がカギである。何かと言うと「脳」でもって光を感じている為である。それをどのようにして感じるのか、キーワードに「生物時計」と呼ばれるものであり、

「胎児の脳のちょうど真ん中に『視交叉上核(しこうさじょうかく)』と呼ばれる部分が存在し、このお母さんから送られたメラトニンを受け取る受容体がある。この視交叉上核は『生物時計』とも呼ばれ、胎児の脳はここでメラトニンを受け取るといまは夜だと感じることになる」(p.30より)

とある。つまりメラトニンを受け取るのかどうかによって光があるか・ないかというのを判別しているのである。

4.「生物時計の招待と時計遺伝子」
もっともこのメラトニンを受け取る生物土塊によって「朝」「昼」「夜」の区別をする事ができるため、視覚で捉えていなくとも、「光を感じる」ことができる。もちろん生物時計により、胎児の中の時計、いわゆる体内時計も作用されるようになり、生まれる前から「朝」「昼」「夜」を判別することができる。

5.「メラノプシンの大発見」
脳で「光を感じる」ことはできたのだが、では次に視覚で「光」を感じるようになるまでにはどのようなプロセスがあるのだろうか。元々直接目で見ているわけではなく、本章のタイトルにある「メラノプシン」という物質が関係してくる。そしてその「メラノプシン」が作用するところは「網膜」にある。

6.「光が生物時計をコントロールする」
次は光が生物時計にどのような影響を与えるのかであるが、ここまでは「メラノプシン」や「メラトニン」といったもので「感じる」ことが主であったのだが、本章からは本当に「光」を与えることになる。この「光」の与え方によってはコントロールが正しくもでき、一方で狂わすこともできる。それは光の明るさと当てる時間に関係する。

7.「赤ちゃんは光で育つ」
赤ちゃんが光を認知するのは「メラノプシン」に夜ものであるのだが、その与え方によって赤ちゃんの成長の仕方も大きく変わってくるのである。こういった研究について実用化をしているのだが、何かと言うと「保育器」である。1.でも記した「早産児」の治療がきっかけで研究が進み、そのゴールの一つとして「保育器」がある。他にもマジックミラーやフィルターなど、赤ちゃんの生物時計のコントロールに役立つものの開発も進められている。

最初は「赤ちゃんと光」についてあまりピンとこなかったのだが、「光を感じる」ことのメカニズム、さらには生物時計や遺伝子を見ていくうちに人が光を認知するまでのプロセスを知る事ができる良い機会だったと言える。むしろ私たちが見る「光」というのは、もうすでに体内で知る・感じることになっていたのかもしれない、と言うことについて、本書を読んでそう思った。