12人の優しい「書店人」

「出版不況」や「書店不況」と呼ばれて久しいが、実際にほぼ毎日の様に書店に行っている私から見てみると、小さな書店でも独自の方法で生き残っている所もあれば、打つ手がなくなってしまい、潰れてしまったところもあると言うのが現状としてある。本全体の売上高が右肩下がりと言われているその一方で、新刊は1日200冊以上にも及び、さらに著者・作家になりたい方々も後を絶たない。

そんな中で書店はどうあるべきか、本書は生き残りをかけた12人の「書店人」たちを追っている。ちなみに「書店人」は書店員を始め、経営者、店長などを本書にて総称して表している。また、本書のタイトルもぱっと見と言っては難ではあるが「十二人の怒れる男」にインスピレーションされた三谷幸喜作の舞台劇「12人の優しい日本人」を捩ったものと推測できる。

第一章「中小書店の戦い方」
最初に紹介される「書店人」は大手書店チェーンを辞め、小さな書店に転職した人を紹介している。最近では大手書店チェーンが都市部を中心に全国展開しており、それによって中小書店が淘汰されている状態が続いている。
しかし小さな書店にも小さな書店なりの戦い方があると言うが如く、「個性」や「独自性」といった要素でもって対抗しようとした。しかしそこには「配本」という壁が存在した。この「配本」のシステムは書店、及び出版流通におけるシステムの欠陥として本章にて取り上げられている。対策の一つとして、料理における食材にもあるような「旬」を用いられている。

第二章「ベストセラーの「舞台裏」」
ベストセラーが誕生する要因はいくつか存在する。一つはネームバリューが絶大であり、ひとたび発売されると瞬く間に売れ、ベストセラーとなってしまう例、一つはブログや口コミなどで話題になり、それがベストセラーとなる例、そして最後は書店のPOPなどを利用して販売促進して、ベストセラーにのし上がった例とある。本章で紹介されるのはその中で二つ目と最後の例である。最後に書いた「POP」では、書店でもよく使われる「手書きPOP」の工夫について取り上げられており、二つ目の例として口コミの起爆剤として情報発信をしていく「書店員」が取り上げられている。

第三章「「本屋大賞」の未来」
今となっては様々な文学賞があるのだが、その中でも本章で取り上げられる「本屋大賞」は文学賞ではあるものの、審査員は「書店員」たちの投票であるという。
その「本屋大賞」がつくられたきっかけは最初にあったような背景の他に、2002年下半期に発表された第128回直木賞が「該当作品無し」となったことへの憤りから創設されたのだという。この時のノミネート作品を挙げると、石田衣良の「骨音―池袋ウエストゲートパーク」や横山秀夫の「半落ち」など、これまでの直木賞とは違って注目作ばかりのノミネートだった。中でも「半落ち」については選考のプロセスでも物議を醸しており、それが憤りの引き金となったとも言われている。その憤りが、アメリカにあった賞をなぞらえて、本屋大賞の根幹がつくられた。紆余曲折を経て、「本屋大賞」がつくられたのは2004年だったのだが、大成功を果たし以後も続くようになった。

第四章「異能の人、終わらない夢」
書店業界でも「異能の人」は存在する。中でも本章では絶版品切れの文庫本を販売している「書店員」がいる。その仕入・販売のスタイルは、書店業界はおろか、古書業界の常識ですら覆すものだった。しかし業界の変化とともに、何度も閉店の危機はあった。それでもなお書店員は新しい技術や考え方でもって生き残りをかけて挑み続けていった。

第五章「「書店人」のキャリア」
書店の倒産が相次ぎ、書店員を辞めてしまい、書店業界に二度と足を踏み入れない方も中に入る。本章にて紹介される「書店人」は大学を中退し、本が好きだと言うことで書店業界に入るも業界の荒波にさらされ、書店人を一度辞めてしまった。そして書店業界に絶望した部分のあったのだが、取引先の方からの救いの手が、再び「書店員」にカムバックするきっかけとなった。本章ではそのエピソードについて取り上げられている。

書店業界もまた厳しい現実の最中にいるが、書店人たちの情熱により、全体的に活況とまではいかないものの、続いている。いずれも「本が好きであること」「書店が好きである事」があってこそ成り立っているのだと、本書で取り上げられている「書店人」の姿を見て思った。