習慣の力 The Power of Habit

「習慣」はビジネスを行う上で重要な要素の一つである。新しいメソッドを知ったとして、それを血肉にしていくには、実践することを日々行う形として「習慣化」していくことにある。
しかし習慣を身に着けるにしても、どういったことを行ったらよいのかわからない、という方もいる。もっと言うと、いったん「習慣」を身に着けたとしても、自分自身の意志の弱さが仇となり定着しない、ということも往々にしてある。その「習慣」をいかにして持つべきか、本書はそのことについて伝授している。

第1部「個人の習慣」
第1章「「習慣」のメカニズム―行動の4割を決めている仕組みの秘密」
個人的な自己啓発であれば第1部を読むだけで充分である。最初は「習慣」はどのようにして生まれるのか、その概論について取り上げている。本章のサブタイトルにある「仕組み」が「習慣」の根幹を成すといっても過言ではない。
その「習慣」をなすメカニズムとは何か、主に「きっかけ」「ルーチン(ワーク)」「報酬」が挙げられる。きっかけはビジネスチャンスや良い意味での刺激と言ったものが挙げられ、それが実行することになり、それを続けられる「ルーチン」となり、やったことによって返ってくるリターンとして「報酬」がある。
もちろんこの「習慣」のサイクルは良い意味でも悪い意味でも用いられるが、それを脱する為にどうしたらよいのかも本章にて取り上げている。

第2章「習慣を生み出す「力」―ファブリーズが突然大ヒットした理由」
「ファブリーズ」といえば部屋などの臭い消しとして非常に有名である。しかしその商品が開発されたのは、アメリカであり、1998年に発売されアメリカにて大ヒットしたことにより、日本でも1999年初頭に発売された。
アメリカにおいてファブリーズが大ヒットした要因には本書で取り上げる「習慣」を生み出すきっかけにあったという。

第3章「習慣を変えるための鉄則―アルコール依存症はなぜ治ったのか」
第1章でも書いたように習慣は良い方にも悪い方にも働く。その悪い方の習慣を良い方向に変えるためにはどうしたらよいのか、事例として本章ではアルコール依存症を持った人の家族、最弱と呼ばれたアメリカンフットボールチームなどを引き合いに出している。
いずれも行っていることは「きっかけ」「報酬」はまったく変えることはしていない。変えるのは、行動に当たる「ルーチン」だけである、と言う所にある。つまり新しい行動をする事によって、悪い習慣はなくすことはできないものの、それを「良い方向に変える」ことは可能であると言う。

第2部「成功する企業の習慣」
第4章「アルコアの奇跡―会社を復活させた、たった一つの習慣」
本章で紹介する会社「アルコア」は「Aluminum Company of America」の頭文字を取った社名であり、言うまでも無くアメリカのアルミニウム製品の製造・販売を行っている会社である。ちなみに日本にも「アルコア・ジャパン株式会社」がある。
その「アルコア」は現在でこそ世界的企業になっているのだが、1970年代後半までは粗悪品の代表格として槍玉に挙がっていた。社員の脳力も低く、品質や効率は全くなかった。もちろん安全対策も取られておらず、毎週のように工場でけが人が出たという。
しかしある人がCEOに就任した時、これまであったルーチンを見直し、実行し直すことにより、工場の安全が飛躍的に向上し、そこから利益も飛躍的に拡大していった。

第5章「スタバと「成功の習慣」―問題児をリーダーに変えるメソッド」
スタバ(スターバックス)といえばこれもアメリカ、日本をはじめ世界的に展開しているコーヒーチェーンであるが、本章ではリーダーの育成についてある問題児の意識改革を行った。そのメソッドにも今まで取りあげられた「習慣」がある。もっとも印象的なものとして、意識改革そのものを習慣化することによって、まるで筋肉のように鍛えられる所は発見といえる。

第6章「危機こそ好機―停滞する組織をいかに変革させるか」
現状維持や停滞は「衰退」を意味するが、それがわかっていても潜在意識の中に「今のままで良い」という意識が、無意識に停滞や維持に走ってしまい、危機を生み出す要因にもなる。
その「危機」を好機にして、停滞や維持から脱するために、習慣を変えることを提示している。

第7章「買わせる技術―ヒット商品を自在に生み出す秘策」
本章は今までは組織変革や自己変革として「習慣」を変える、あるいは「習慣化」するということを取りあげてきたのだが、ここでは、顧客の「習慣」を知ること、そのことによってヒット商品を連発する仕組みを作り上げたエピソードについて取りあげられている。現在で言うところの「ビッグデータ」の原型の一つと言える。

第3部「社会の習慣」
第8章「公民権運動の真相―社会運動はどのようにして始まるのか」
習慣化は社会そのものを変えるという意味合いから、第3部ができたのかもしれない。この第3部では社会的事件や問題を「習慣」の観点から取りあげている。
本章では戦後アメリカの中で最も象徴的な出来事の一つとしてある「モンゴメリー・バス・ボイコット事件」が挙げられる。これは、

「1955年にアメリカ合衆国アラバマ州モンゴメリーで始まった人種差別への抗議運動」Wikipediaより)

というものである。このほかにも人種差別を象徴づける事件が起こり、「公民権運動」と呼ばれる社会運動に発展した。

第9章「習慣の功罪―ギャンブル依存は意志か習慣か」
現在日本では「カジノ構想」が出てきているのだが、その中で根強い批判として「ギャンブル依存」「犯罪の温床」がある。特にギャンブル依存の声は大きく、現に競馬・パチンコなどで依存している人も少なくない。
そのギャンブル依存は習慣によってできたものなのか、それとも意志によるものなのかについて取りあげている。

「私たちの生活はすべて、習慣の集まりにすぎない」(p.7より)

この言葉をもとに、本書がつくられたと言っても過言ではない。習慣をかることによって、自分自身を変えることができるのだから。その習慣をいかにつきあっていくか、そして変化していくのか、それは実践する人にかかってくるのかもしれない。