実践!交渉学~いかに合意形成を図るか

ビジネス書のコーナーに行くと色々な「交渉術」が並んでいる。私自身交渉事がけっこう苦手であるため、ビジネス書でも交渉術を読んだり、取り上げたりする。
しかしよく考えてみると「交渉」はビジネス特有のものではない。そもそも交渉とは、

「1.ある事を実現するために,当事者と話し合うこと。かけあうこと。
 2.人と人との結びつき。かかわりあい。関係」「大辞林 第三版」より)

とある。ビジネスの要素は強いものの、実際のところ、「当事者との話し合い」があるためにどの世界でも「交渉」は起こりうる。そう考えると、はたして「交渉」とは何かというのがわからなくなる。その定義について、本書にて「交渉学」と銘打って考察を行っている。

第1章「交渉とは何か」
「何か」という辞書的な定義は最初に取り上げたとして、本章で取り上げる「交渉」の定義には主に2種類ある。
一つは配分を決めるための「配分型交渉」
もう一つは配分のほかに異なる要素を取り入ってやり取りを行う「統合型交渉」
が挙げられる。ほかにも本章では交渉学の定義から、交渉の上で行われるコミュニケーションのあり方について取り上げられている。

第2章「交渉のための実践的方法論」
本書は「交渉学」の定義について考察を行うだけにとどまらない。交渉を行う上でいろいろな「妥協」が必要になってくる。その妥協について本章では「BATNA(不調時代替案)」や「ZOPA(合意可能領域)」といった用語を使って取り上げている。一見難しいように見えるが、単純に書くと前者は「代替案を出す」、後者は「譲歩する」といえばすんなりとわかる。
もちろんそれぞれに意味があり、交渉をお互いに有益をもたらすためにどのような案を作ったり、交渉を持っていけばよいのか細かく説明されている。

第3章「社会的責任のある交渉の進め方」
ビジネスにおける「交渉」では、「Win-Win」の関係が絶対視されている。しかしその「Win-Win」は解釈によって思わぬ落とし穴に陥ってしまうこともある。本章ではその「落とし穴」と「Win-Win」の正しい定義について説明している。

第4章「一対一から多者間交渉へ」
交渉は何も「一対一」とは限らない。「多対多」とも呼ばれる多者間の交渉も往々にしてある。それを本章では「マルチ・ステークホルダー交渉」と定義づけられている。本章ではその定義の中身と具体例について取り上げている。

第5章「社会的な合意作成とは」
交渉のゴールはお互いの「合意」を得ることにある。もちろんその合意に至るまでに「代替」や「譲歩」などにより「利害調整」を行う必要がある。本章ではその「合意」に至るまでのプロセスについてビジネス・社会問題双方の観点から取り上げている。

第6章「交渉による社会的合意作成の課題」
本章ではビジネスから少し離れて社会問題やメディアなどにおける「交渉」について取り上げている。交渉のケーススタディというよりも、時事的な事柄を交渉のモデルケースにしているといった方が良いといえる。

第7章「交渉学についてのQ&A」
本章では交渉についてのお悩み相談ではなく、「交渉学」とはいったい何なのかについて「Q&A」形式で取り上げている。その中でも最も印象的だったのが日本で「交渉学」は通用しないのではないかというものである。理由に日本と欧米の文化の違いが挙げられるが、土壌や文化は違えど「交渉」は必ず存在するという。

「交渉」をうまく進める本はいくつもあるが、本書のように「交渉」そのものを学問的に取り上げている本は珍しい。ましてや「交渉学」という学問は本書に出会うまで全くと言ってもいいほど知らなかった。そういう意味で本書は価値ある一冊といえる。

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