誰かが足りない

本書の表紙を見るとテーブルと椅子が4つある。これは何を意味しているのかとふと疑問に思ったのだが、本書の目次を開くとおのずと「レストラン」であることがわかる。そう、本書は予約を取ることですら難しい小さなレストランを舞台にした「6つ」の物語である。「6つ」は簡単に言うと6組のお客様が、それぞれのドラマを持ってきて、紡いでいる。

6つの物語でもそれぞれお客様が異なる。老夫婦もいれば、青年だけもおり、若い女性、仕事帰りのサラリーマンなど2人組もいれば、1人だけで来店し、メニューを選び、料理を嗜む。

その前後には必ずと言ってもいいほど周囲の人々の人間模様が映し出されており、それがレストランの雰囲気とマッチしている。とどのつまりそれぞれのエピソードに合わせてレストランの情景も変わってくる。もちろん形の情景ではなく、重苦しい雰囲気など目に見えない部分での「情景」である。その情景の変化が物語の面白さを引き立たせてくれ、各章ともに楽しむことができた一冊である。