恋づくし – 宇野千代伝

元々私自身は宇野千代という人物について名前以外は知らなかった。しかし今から6年前の秋に「私のおとぎ話」という本に出会ったとき、ようやく人物・本に巡り合うことができた。元々寡作だったこともあり、作品自体になかなか出会えなかったのだが、犯罪以外様々なことに手を出した姿から、その経験や教訓を童話にしたためた作品は、今まで童話をいくつか読んだことのある私にとって身震いするほどの感動を覚えた一冊である。

本書は自伝・評伝というのではなく、あくまで著者自身の取材・資料をもとにして描いた「フィクション」である。もちろん宇野千代自身の波乱万丈に満ちた歴史を描きつつ、著者自身のフィクションの要素をまぶした作品である。現に「生きていく私」といった自身が描いた自伝的小説があり、その作品自体も2度テレビドラマ化されているため、なぜ本書のような実際の人物を描いたフィクションを描く必要があるのかとも思ってしまったのだが、著者自身が宇野千代を描いたとしたらどのようになるのかという実験的な要素があったのかもしれない。