「次の一手」はどう決まるか―棋士の直観と脳科学

将棋や囲碁、さらには麻雀、最近ではテレビゲームのプロ舞台「e-Sports」など、いわゆる「知的格闘技」なる舞台がある。その舞台では常に「次の一手」を考えるために様々な思考力を張り巡らす。それが戦いの中で何度もある中で棋士によっては1戦で5㎏体重を落とすというようなことさえもある。次の一手を決めるために思考を張り巡らされるのだが、将棋棋士、さらには脳科学研究者のコラボレーションでもって科学的に考察を行ったのが本書である。

第1章「思考の秘密を解く楽しみ」
プロ棋士の思考は抑ある人のそれとは異なると言う。もっとも将棋の戦いの中で盤上にて次の一手をどう打つのか、そのことを秘密を明かす理由と、解明する際のプロジェクト発足に就いての経緯を取り上げている。

第2章「「次の一手」を生み出す脳機能解明へのアプローチ」
次の一手を生み出すために脳はどのような動きをしているのかを脳の部位を元にして表している。もちろん脳科学にまつわる研究のため、脳の働きを取り上げると共に、次の一手はどのようにして考えるのか、プロ棋士の場合は定跡をもとにして考えることが多いため、その定跡を思い出す部分やそれ以外の一手を考える部分など、脳運動のみならず眼球などありとあらゆる所で次の一手を生み出すために働いているという。

第3章「将棋の認知科学的研究」
将棋における思考力は判断力もあるのだが、定跡や過去の戦いなどのデータを引っ張り出すための「記憶力」も含まれる。その記憶力を駆使して、次の一手を導き出すための参考材料を持ってくることもまた脳運動の中であるのだが、他にも盤面から見た「認知」をいかにして次の一手に結びつけていくのかも併せて考察を行っているのが本章である。

第4章「棋士の視点から読む将棋研究」
かつて「プロ棋士 VS コンピュータ将棋」といった戦いが行われ、話題となった。特に2013~2016年にて行われた「電王戦」はニコニコ生放送にて取り上げられ、対局後はニュースになるほどだった。その電王線における衝撃もあれば、プロ棋士の将棋研究はどうであるのか、現役プロ棋士が語っている。

第5章「コンピュータの夢」
このコンピュータ将棋はAI研究にて役立てられることとなった。かつてはチェスで絶対王者であったガルリ・カスパロフに勝利し、コンピュータ将棋が人間に勝ってからは囲碁でも世界的な棋士を相手に勝ち越し、もしくは完勝するようなことさえもあった。その研究を経て「AI」の技術は進化してきているのだが、そもそもAIは人間に限りなく近づけるとができるのかなど、その可能性を追っている。

第6章「ヒトを対象とした脳研究が向かう先」
将棋の思考における脳科学研究はこれからの脳科学にどう影響を与えるのか、その可能性を取り上げている。

将棋の思考は脳科学においてどのようになるのかという研究は行われていることは知っていたのだが、本書のように形になって出てきたのは私の知る限りでは初めてのことである。もちろん脳科学において将棋を指すとはどのような定義となるのかというのは謎ではあるものの、次の一手を導くために脳の中ではどのような運動をしているのかが良くわかる一冊であった。