ソクラテス・メソッド—説得せずに“YES”がひきだせる!

おそらく現在につながる哲学の源流をたどっていくと、ある人物に行き着く。その人物こそ「ソクラテス」である。ソクラテスが活躍した当時、哲学を教える人々はほかにもいたのだが、己の知見が正しいと考えて教えるソフィストの講義に反し、自分は相手と対話することによって知らないところを知るようになり、なおかつ知を愛し、学びをつけていくという方法であった。

ソクラテスの生涯は本章にも言及されているため、後ほど取り上げるが、ソクラテスがここなった考え方はマイケル・サンデルの「ハーバード白熱教室」でも行われたという。著者はそれを「ソクラテス・メソッド」としているのだが、その方法と有用性について取り上げたのが本書である。

1.「「ハーバード白熱教室」に学ぶ対話メソッド」
「ハーバード白熱教室」は2010年の4月にNHK教育テレビ(現:Eテレ)にて放送されたものであるのだが、活発に議論をされる姿から「白熱教室」が人気を呼び、書籍やDVDにまでなった。実際に行われた内容としては哲学的において基本的なことであるのだが、進め方に特徴があり、対話式にて行われているところにあるのだという。しかもその対話も意見を戦わせ、そして生徒それぞれで考えると言ったことを主としている。そのため自分の頭で考え、発言し、相手の意見を聞くと行ったコミュニケーションとシンキングのサイクルをつくり、思考力を育てることもまた「ソクラテス・メソッド」としての役割を持っているという。

2.「ソクラテスを“巨人”にした知恵の助産術」
本章ではソクラテスの生涯と残したものを取り上げている。もっともソクラテスは著書自体存在しない。ソクラテスの愛弟子であるプラトンがちょしたもの(「ソクラテスの弁明」「饗宴」など)がいくつかあるくらいである。ソクラテスの哲学は徹底的に対話を行う、そのなかで自分はいかに考え、知を生み出すかにかかっている。しかしながらその方法がソフィストたちの逆鱗に触れ、裁判となった。ソクラテスは信念を曲げず、アテネの今の憂う演説を行ったことにより、死刑(毒殺刑)となった。その対話を重視した、学び方こそ「知の助産術」なのだという。

3.「交渉・説得で確実に成果を生む実践法」
議論をしたり、交渉したり、説得したりすることを往々にして「言葉での勝ち負け」と言うようにとらえる人が少なくない。もっとも対話によってそのようなことはあるのだが、勝ち負け以前に相手の意見を聞きつつ、自分の意見を出しつつ、提案を行っていき、成果を生み出すと行ったことが大切である。それは政治的な議論もあるのだが、ほかにもビジネス的な対話としては殊更求められる。

4.「“知と才”を引き出すソクラテス・メソッド」
ビジネスにおいてコミュニケーションは大切なことではあるのだが、その大切になるコミュニケーションというとどのようなことを連想するのだろうか。手段はたくさんあるのだが、もっとも言葉をキャッチボールを続けることにある。ただソクラテス・メソッドはそこから新しい知と才を生み出すことが求められるため、人の話や考え方を引き出し、なおかつ独りよがりになることなく、相手が考え、引き出せるようにすることが必要になる。実践編に近い内容になるため、上司・部下問わずに学べる章である。

5.「人を気持ちよく動かす7つの習慣」
主にリーダーとして部下に対してどのように接したらよいのか、習慣的な観点から取り上げている。部下はロボットではなく、「人」であるため、対話によって良い関係を築き、なおかつ自分にとっても相手にとってもプラスにできるという。また本章では先日逝去したマラソンの小出義雄監督の育成法にも言及している。
6.「身近な関係ゆえに難しい親と子の対話の秘訣」
ここではプライベート、特に家族においての対話法である。親子にしても、夫婦にしても、身近であるが故に、対話が難しい。特に親子については世代や価値観は異なるものの、もっとも近い関係にあるためにどのように接したらよいのかわからなくなることが多い。性急に答えを出さずにじっくり対話を行い続けることによって深化していくのだが、状況に応じて強硬になることも必要である。その線引きをどうするかについても取り上げている。
7.「ブレずに答えがだせる思考の訓練法」
明確な「答えを出させる」ことによって次にやるべきことや、課題が見えてくるようになる。それは上司・部下とのやりとりについても同様のことが言え、なおかつ自分や相手の物事の優先順位を決めるための議論など、どのように行ったらよいのかという方法を本章にて伝授している。
ソクラテスは哲学における源流となる一人ではあるのだが、本書を読んでいくとコミュニケーション法の源流の一人とも考えられる。ソクラテスが行ってきた方法は、ハーバード白熱教室でも行われ、ビジネスやプライベートでも転用できることが本書の「ソクラテス・メソッド」にてよくわかる。