水墨画入門

絵画にも種類はいくつもあるのだが、特に「水墨画」は日本では古くから存在しており、最も古いものだと奈良時代にまで遡る。しかし今ある水墨画自体は鎌倉時代に、中国大陸から伝わったものと言われている。特に室町時代、雪舟をはじめとした多くの僧が水墨画を残し、今日ある水墨画のイメージを形成づけた。本書はその水墨画の歴史と絵画としての立ち位置などについて追っている。

第一章「水墨画とはなにか?」
「水墨画」とは、

「墨色の濃淡の調子によって描く絵。中国では山水画を中心にして唐代中期に起こり、五代・宋以降に盛行、日本には鎌倉時代に伝わり禅宗趣味と関連して行われ、室町時代に最も栄えた。すみえ」「広辞苑 第七版」より)

とあり、墨の濃淡を表現する「絵」として表しているのだが、本書では「詩書」といった詩としての文字も絵画の一種として扱っているため、実際の定義としてははっきりせず、難しいのだという。

第二章「水墨の発見」
水墨画は墨の濃淡を始め、線の濃淡や太細といったものも表現としてあげられており、それぞれの違いを考えると奥深さが増してくる。
もっとも水墨画の文化は「筆墨の文化」として扱われているのだが、その文化は水墨画を通してどのように形成づけていったのか、そのことについて取り上げている。

第三章「水墨画の存在様式」
もっとも水墨画は室町時代をはじめとしたかつてあった絵画の技法ではなく、現在でも水墨画の絵画が出てきており、本章でも数多く紹介している。しかもその水墨の在り方は単純に濃淡や太細といった話を大きく飛び越えている印象が強い絵が多くあった。本章ではその水墨画がなぜ存在するのか、水墨にある墨液のメカニズムや紙と水墨の浸透具合などをもとに科学的な観点で考察を行っている。

第四章「イリュージョニズムの山水画」
水墨画でよく連想するものとして山と水の絵が多い。これを総称して「山水画(さんすいが)」と指している。その山水画は風景画の一つとしてあげられるのだが、山や水をどの視点から、もしくはどこから見ているかによって描く絵も変わってくる。絵によっては独特のイリュージョンとしての山水画が生まれるのだという。

第五章「水墨画がやってくる」
今ある水墨画にしても、冒頭にて奈良時代以降に伝来した水墨画にしても全て中国大陸からやってきた。なぜ奈良時代にもあったのかと言うと、日本最古のマンガと称される「鳥獣人物戯画」は水墨が中心となっている。

第六章「詩書画の世界」
詩書というと、完全に文字であるのだが、その文字もまた絵となり得るという。よくある書展で、書道としての漢字の羅列だが、何かというと「詩書画」の一つであるという。他にも水墨画などの絵を絡めて文字を入れ、絵をさらに映えるようにすることもまた詩書画の一つとしてある。

第七章「「胸中の丘壑」から「胸中が丘壑」へ―水墨表現のさまざま」
本章のタイトルにある「丘壑(きゅうがく)」とは、

「おかと谷。転じて、隠者の住む所。また、隠者の心の楽しみをいう」「広辞苑 第七版」より)

という。俗世から離れて、隠居するというイメージを持ってしまう。それはさておき、本章ではタイトルの「~の~」から「~が~」に変わる印象として水墨画とともに表しており、水墨画をもとに具体的にどのようにして「の」が「が」に変化しているのかを解説している。そのことから山水画であるのだが、山谷の深さの如く奥深さも増している所が印象的である。

現代でも新たに生まれた水墨画があり、第三章でも言及しているように本書にていくつか取り上げている。いずれも現代アートと言うべきか、水墨画そのものが進化したのかというイメージを持ってしまうのだが、有名な水墨画は質素であるもののその中にある意味は奥が深い。水墨画の入門書ではあるものの、その奥深さを知る入門だった印象である。