伝統芸能の場にて活躍する若者は少なくない。本書はその中から若手の台頭となっている12人の人物を取り上げ、伝統芸能に挑む覚悟と情熱を取り上げている。
第一章「尾上松也(歌舞伎俳優)」
音羽屋として六代目尾上松助を父に持つ尾上松也は、歌舞伎の活躍はもちろんのこと、ドラマや現代劇、ミュージカルと多岐にわたる活躍を見せている。その一方で歌舞伎への情熱も強く、毎年1月に行われる「新春浅草歌舞伎」のリーダーを勤めているほどである。
第二章「中村壱太郎(歌舞伎俳優)」
祖父に四代目坂田藤十郎を、父に四代目中村鴈治郎を持つ中村壱太郎は特に女形としての活躍が目覚ましい。女形となると祖父の坂田藤十郎が二代目中村扇雀の時代に「曾根崎心中」など女形にて当たり役となるほどだった(立役も同様である)。その中村壱太郎は坂東玉三郎しか演じられなかった「阿古屋」を受け継がれたエピソードも語っている。
第三章「市川染五郎(歌舞伎俳優)」
2018年1月に2度目の「高麗屋三代同時襲名」にて八代目市川染五郎を襲名した。その襲名の時に勧進帳にて義経を初役で演じた。染五郎を襲名して2年経つが、これからの歌舞伎でやりたいこと、そして歌舞伎以外でやりたいことを余すところなく語っている。
第四章「竹本織太夫(文楽太夫)」
文楽の太夫をつとめる、六代目竹本織太夫は襲名披露にて極めて難解な演目である「摂州合邦辻(せっしゅうがっぽうがつじ)」を演じた。その演じるにあたっての苦しみなどを取り上げている。
第五章「鶴澤清志郎(文楽三味線)」
次は文楽における三味線である。太夫の語りなどを支え、そして文楽の世界観を生み出す重要なポジションとしての三味線の奥深さ、そして師匠への思いなどが語られている。
第六章「吉田玉助(文楽人形遣い)」
文楽において太夫と三味線に並んで花形と言えるのが「人形遣い」である。その人形遣いに憧れ、また祖父・父も人形遣いとして活躍した五代目吉田玉助は人形遣いとしての思いが綴られている。
第七章「宝生和英(能楽シテ方)」
能の舞台の中で最大の花形としてあるのが「シテ方」と呼ばれ、面をつけて踊る立場である。その能の舞台での踊りとスポーツとの共通点があるのだという。その共通点について語っているのが本章である。
第八章「亀井広忠(能楽囃子大鼓方)」
能楽において太鼓も重要な立場である。太鼓方の人間国宝を父に持つ亀井広忠は、太鼓の流儀を語っている。
第九章「茂山逸平(狂言師)」
狂言師というと、和泉流といった所が有名であるのだが、茂山逸平をはじめとした大藏流もまた狂言では有名な一派である。特に四世茂山千作は狂言師として初めて文化勲章受章者となったほどである。その茂山逸平の狂言に対する思いを綴っている。
第十章「春風亭一之輔(落語家)」
春風亭一朝門下で、21人抜きの真打昇進として大きな話題となった春風亭一之輔は、若手の筆頭格と言われている。寄席やホールなどでの講座を精力的にこなし、年900席もこなしたとも言われている。古典落語を独自の切り口で演じ、なおかつコラムを持ち、さらには緊急事態宣言で寄席などが休館となった時は自らYouTubeチャンネルを開設し、落語とを演じ、配信することで大きく視聴者数を伸ばした。これでもかと言うほど落語に取り組む姿勢は本章では自身を「寄席中毒」と称しているのだが、「落語中毒」と言えるほどである。そうなるまでのエピソードを自ら綴っている。
第十一章「神田松之丞(講談師)」
神田松之丞は今年の2月に六代目神田伯山を襲名した。講談師としては最も人気のある人の一人であり、なおかつ自らのテレビ・ラジオ番組を持つ、さらには春風亭一之輔と同じく(開設は春風亭一之輔より前だが)YouTubeチャンネルを開設・配信するなど多彩な活躍を見せている。その神田伯山の入門時のエピソードや講談へのこだわりを取り上げている。
第十二章「春野恵子(浪曲師)」
一昔前に「電波少年」という番組を視聴した方であれば分かる人も多いかもしれない。「電波少年的東大一直線」で東大に向けて勉強する企画で家庭教師をした「ケイコ先生」がいたが、その「ケイコ先生」は後に浪曲師となった。元々舞台女優志望だったケイコ先生はなぜ浪曲にハマったのかと、入門するまでの道のりについて明かしている。
伝統芸能の若き担い手たちは、これまでの芸を継承するとともに、自らの葛藤を経て、自身の芸へと昇華し、伝統をより新しいものへと「進化」を続けながら活躍している。本書にて取り上げられた方々が10年後、20年後とどのような活躍をされるのか楽しみである。
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