昨今ではインフラそのものが民営化・自由化の風潮がある。海外でも同じような風潮であり、先立って行われており、日本はそれに追随する様相である。しかし特に「民営化」についてはデメリットがあり、民営化を行った国の中には「再公営化」にした所も少なくないのだという。なぜ再公営化が進んでいるのか、そして民営化を進めようとしている日本ではどのような状況になるのか、そのことについて取り上げているのが本書である。
第一章「水道民営化という日本の危機」
水道民営化の話は前々から合ったのだが、2018年の12月に「水道法」が改正・公布され、2019年12月に施行された。「水道民営化」と言ってもピンとこない方がいるかもしれないが、水道の支払いは各自治体における所からの支払いになることは変わりない。大きく変わるところとしては管理・運営が民間企業によって行われるのだという。このことにより、より効率的な運営が行われること、さらに老朽化した水道の工事、そして耐震化などを促進する狙いがあった。しかし、この民営化にもリスクがあり、災害が起こったときの対応や事業リスクといったものがあり、それを懸念した国では再公営化を行うといった中で、時代に逆行しているといった指摘がある。
第二章「水メジャーの本拠地・パリの水道再公営化」
また民営化にはさらなるリスクがあり、「水道料金の値上がり」にも直結しているところがある。本章で紹介するフランス・パリでは1985年と先んじて民営化を行ったのだが、財務管理がずさんであることが露呈され、なおかつ民営化してからの間物価の上昇以上に値上がりを続けていた。それに歯止めをかけるべくパリでは、再公営化に向けて動き、叶えることができたが、決して平坦なものではなかった。
第三章「資本に対抗するための「公公連携」」
「水」はインフラであるため、ビジネスとは異なる。そのため民間で行うよりも、公営で行うべきという意見が特にヨーロッパの自治体であったのだという。その公営での事業提携の風潮と戦いの一部始終を追っている。
第四章「新自由主義国・イギリスの大転換」
イギリスでも同じように再公営化の動きを見せていた。特に新自由主義と標榜しており、民営化に推進をしていたイギリスが、である。もっとも民営化をすることによって「水」における「格差」が生じたことにより、平等的な供給ができなくなった、またフランスと同じく民間企業におけるインフラの保全・更新が機能しておらず、なおかつ経営の監視(モニタリング)もできていなかったことが露呈され、再公営化へと舵を切った。
第五章「再公営化の起爆剤は市民運動」
「再公営化」への動きのきっかけとなったのが、政党への投票や、市民運動によるものだったという。その動きについて取り上げているが、本章ではイギリスにおける動きが中心となる。
第六章「水から生まれた地域政党「バルセロナ・イン・コモン」」
スペインでは「水」に因んだ政党がある。民営化ではなく、「再公営化」としてである。スペインは政党単位で行われてきたのだが、その中ではどのような動きがあったのかを取り上げている。
第七章「ミュニシパリズムと「恐れぬ自治体」」
実際に水道における再公営化の行動に移したのは国ではなく「地方自治体」である。本章のタイトルにある「ミュニシパリズム(地方自治体)」そのものを表しているように。国の方針に従わずに、地方でできることは地方で、という動きを取り上げている。
第八章「日本の地殻変動」
民営化してから特に目立った動きはないのだが、民営化への動きを見ている中で、日本ではどのような動きを見せているのか。本章ではモデルケースをもとにして取り上げている。
西欧各国では民営化から再公営化への動きを見せているのに対し、日本では民営化の動きを見せている。もちろん両方ともメリット・デメリットは存在しており、本書では民営化のデメリットと公営化のメリットがよくわかる。ではその反面はどこにあるのか、その議論が成されたときに、初めて本当に民営化が必要なのか、公営化に戻すべきかを考えた方が良いのかもしれない。
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