「本読み」の民俗誌―交叉する文字と語り

「本読み」と言うと、私のことじゃないかと思ってしまったが、本書は私のことではなく、あくまで書物における伝承について取り上げている。特に書物についてはどのようにして生まれて、どのように人々へ伝えられていったのかは国によっても異なる。本書は日本だが、特に東北における三陸地方における書物の伝承についてを取り上げている。

第一部「「本読み」の民俗」

東北地方の書物伝承の中で本章では宮城県気仙沼市をモデルにしている。気仙沼でも言い伝えがいくつか存在しており、口頭伝承はもちろんのこと、中には書物における伝承も存在している。中でも書物についてはいわゆる「童話」「説話」といったものにして読み伝えられている部分が多くあり、本章では本読みにフォーカスを当てて、どのようにして書物を通して伝えられていったのかを取り上げている。

第二部「書物と語り」

本章では特に三陸地域における伝承を3つ紹介している。いずれも江戸時代から伝えられたものであり、書物として残していたことが発見されたのだが、実際には口伝で伝承されたものもあれば、書物として残っており、それが語り継がれたものも存在する。本章で紹介されている3つの伝承は「歌津敵討ち」「女川口説」「入谷安部物語」の3つである。

第三部「漁村社会と文字文化―呪(まじな)いから漁業権まで」

宮城県気仙沼市は漁村社会であるため、その社会の中でどのようにして、伝承を伝えてきたのか、その歴史的な背景や、独特のムラ社会のシステムも交えて取り上げている。

物事を伝えるために書物は手段としてある。伝承にしても戦国~江戸時代も含めて多くの人々が伝承するために「書」にして残している。紙の書物として本書は紹介しているのだが、例えば石碑などもあれば、御触書のように木に書いて伝えていると言うのもある。書物と考えると様々なパターンがあるのだが、本書ではそういうのはどうでもよく、むしろ「どのようにして伝えられたか?」がメインである。気仙沼がモデルケースとなったのだが、他の地域でも形は違えど、言い伝えられていることには違いない。