著者の橋本治氏の最期の一冊である。なぜ「最期」と記載したかというと、本書を描き終えた後の2019年1月、肺炎のためこの世を去った。橋本氏は言うまでも無く作家として、さらには評論家として多芸多才に富んでいた。
本書の話に入るのだが、元々明治期のベストセラーに尾崎紅葉の「金色夜叉」がある。最愛の恋人を奪われ、その怨恨から高利貸しとなり、復讐を行うというものである。それを現代版にアレンジしたのが本書である。
元々は普通の大学生で、許嫁もいた。しかしその許嫁を資産家に一瞬にして奪われ、しかもお金までむしり取られた。その男は職を転々としながら経営者になり、金の亡者になろうとしていた。しかし目的は金のためではなく、資産家への「復讐」そのものだった。しかしその経営の中で別の女性をはじめとした多くの人の出会いがあったのだが、裏切りも幾度となく起こった。もっとも「金色夜叉」でもあったのだが、復讐のむなしさもあり、なおかつ復讐の先の喪失感が何とも言えないが、本書はそれを心情も含めて膨らませているようであった。
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