日本文学に限らず、今日の文学作品については進化を遂げているのだが、その進化のベクトルは本当の意味で「進化」なのか、はたまた「退化」なのか、それは捉えている人々によって大きく異なる。
その日本文学の中でも特に目覚ましい活躍をした人々がどのような作品を生み出し、そして日本文学における歴史にどのような影響を与えていったのか、本書は入門書として日本文学とその歴史と人物について取り上げている。
第1章「異端の文体が生まれたとき―耳から目へのバトン」
本章では主に落語を主軸とした文学作品である。一人は文学作品でありつつ、落語でもよく口演される初代三遊亭圓朝の「怪談牡丹灯籠」、そして落語の影響を強く受けて、「浮雲」を生み出した二葉亭四迷の2人の共通点と文学的傾向を取り上げている。
第2章「「女が書くこと」の換金性―痩せ世帯の大黒柱とセレブお嬢さま」
日本文学の歴史のなかで、女性の存在も捨てきれない。有名どころで言えば樋口一葉である。「たけくらべ」が有名であるのだが、本章ではむしろ女性の部分にフォーカスを当てた「十三夜」を取り上げている。またもう一人女性の文豪を挙げているのだが、田辺花圃(三宅花圃)がいた。もっとも田辺花圃の活躍がきっかけとなったことにより樋口一葉も小説家を目指すようになったため、日本文学における女性作家の原点の一人とも言える人物である。
第3章「洋の東西から得た種本―模倣からオリジナルへ」
「洋から和へ」と言う言葉は、西欧における模倣を経て、日本のオリジナルにしていくと言った風潮であるのだが、連想するとなると、江戸川乱歩が挙げられる。この筆名自体は同じ小説家であるエドガー・アラン・ポーに由来している。江戸川乱歩の推理小説における初期作品は、そのポーの作品の影響を色濃く受けていたのだが、やがて独自の推理作品を続々と生み出し、有名になっていった所がある。
しかし本章では江戸川乱歩ではなく、「金色夜叉」で有名な尾崎紅葉と「高野聖」で有名な泉鏡花を取り上げている。
第4章「ジャーナリズムにおけるスタンス―小説のための新聞か、新聞のための小説か」
小説となると物語やフィクションといったイメージがもたられるのだが、ここ最近では「ノンフィクション小説」なるものもでき、事実に即した物語が描かれる。
本章では時事的な物事や気持ちなどを絡めて、小説作品にしたためている代表格として夏目漱石や「巌窟王」で有名な黒岩涙香を引き合いに出している。
第5章「実体験の大胆な暴露と繊細な追懐―自然主義と反自然主義」
「事実は小説よりも奇なり」と言う言葉があるのだが、奇怪な体験を暴露しながらも、小説にしてしたためているような作品もいくつか存在すると言う。その中には日本文学の歴史のなかで欠かせないものもあり、田山花袋の「布団」や森鴎外の「雁」などがある。
第6章「妖婦と悪魔をイメージした正反対の親友―芸術か生活か」
小説を生活の一部とするか、もしくは芸術とするかについては各々の小説家の中でも、さらには評論家の中でも議論の的になっている。一人は芸術作品として昇華させた芥川龍之介、もう一人は商業として、そして地位向上ために芥川賞や直木賞を創設した菊池寛がいる。
文学の歴史は長くあるのだが、日本文学の歴史はというと、特に歴史を彩ったのが、明治時代において活躍した文豪たちである。文豪たちの活躍と卓越な作品を遺したことにより、今日でもまた親しまれている下地になっている。入門書であるのだが、その歴史の根源を知ることができる一冊とも言える。
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