有島武郎(ありしまたけお)は「カインの末裔」や「或る女」など多くの作品を残した小説家である。小説家の中では学歴ではエリートであり、ハーバード大学にも進学したほどである(1年足らずで退学したが)。その有馬の生涯と、著作の傾向について取り上げたのが本書である。
第一章「二つの地/血から未開地へ」
有島武郎の親族は親こそ大蔵官僚でかつ実業家であるが、作家の里見弴、画家の有島生馬を弟に持つ。生まれこそ東京の小石川(現:文京区)であるが、父が薩摩藩(現:鹿児島県)の出身であることから2つの地といった思いがあった。
第二章「地球と人種」
中等科を卒業した後に北海道の札幌農学校(現:北海道大学)に入学し、そこで新渡戸稲造や内村鑑三の薫陶を受けるようになる。有島の主題の一つとしてキリスト教があったのだが、クリスチャンにもなっていた。クリスチャンになった経緯も内村鑑三の影響を受けてのことである。
また冒頭でも書いたのだがハーバード大学に入学するなど、アメリカへの留学も行ったのだが、そこで西洋哲学などを学んだが、その中で人種の違いと言うことを肌で学ぶようになり、人種に関する考えも持つようになった。
第三章「愛と伝統主義」
志賀直哉や武者小路実篤とともに「白樺」という同人をつくり、作家活動も本腰を入れるようになった。この「白樺」が日本の小説界で言う所の「白樺派」の源流である。このときにある作家との論争もありながら、「愛」の理論について考察を行うようになった。しかしこの「愛」が後々歪み、悲劇を生むこととなった。
第四章「海と資本主義」
有島は海外の文学や哲学にも影響を受けることが多くあった。その影響からか世の中を問うた小説も次々と上梓されるようになった。
第五章「生きにくい女たちの群像」
冒頭でも取り上げた「或る女」は特に女性の生きにくさを描いた小説である。またこの時期に与謝野晶子や平塚らいてうらが「母性保護論争」を起こした時期でもあったため、ちょうどその時期に女性の生き方とは何かを考えるようになり、つくったとも考えられる。
第六章「個性以前のもの」
それ以降、「或る女」から抜粋した戯曲を発表するものの、作品と呼べるものはだんだんと少なくなっていった。またこの時期に文芸論を発表するようになった時期でもあった。
第七章「継承されてしまう財産」
小説家としての創作力が急速に落ち、筆を断った。そしてある女性記者と出会い、恋愛感情を抱くのだが、その女性は人妻であった。その人妻の夫にばれ、訴訟まで起こそうとしたのだが、その後、有島と女性は長野で心中し、この世を去った。
有島は寡作であり、なおかつ作家活動自体も長くない。むしろ面食いで、恋愛感情にて崩壊された人物であり、恩師である内村鑑三からは「背教者」と有島没後も罵るほどだった。その中で有島の作品は今の日本文学にどのような影響を与えたのか、そのことを知ることができる一冊である。
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