イノセント・ツーリング

よく巷にある小説は近未来や過去などを描いている所がほとんどだが、本書ほど現在の状況をもとにした作品はないと考える。コロナ禍の第一波がやって来て、1回目の緊急事態宣言が発令され、閉塞感漂うような日常から開放され、ようやく初夏を迎えたときに、止まりかけていた日常を探し求めるためにツーリングを行うという作品である。

しかしこのツーリングにはコロナ以外にも理由があった。それは若くして命を失った親友の家族と一緒に親友との思い出を探すためのツーリングだった。

今は緊急事態宣言の最中であり、なおかつ未だに感染が終息を迎えるまでに時間がかかる状況にある。我慢の限界を覚える方も少ないない事だろう。しかしこれまであった日常を取り戻すのは容易ではないこと、そして当たり前にある日常が「当たり前ではない」と言うことを否が応でもわかったことかも知れない。本書はそのような状況の中で「大切なもの」は必ずあると言うことを教えてくれる。